ある日の夏の未練の答え

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病院に着きタクシーから降りる。入り口にいた看護師が彼女の姿を見つけるとすぐに駆け寄ってきた。 麻里奈は先程よりはだいぶ楽になったのか幾分か表情はマシに見える。 「どこに行ってたの!?勝手に抜け出しちゃダメでしょ!大事な時なんだよ!」 「ごめんなさい……。倒れてしまったところを彼に助けてもらいました」 看護師はカナトの方を見た。どんな関係性なんだろうかと怪しんでいる感じが表情から伺える。 「ありがとうね。あとは大丈夫だから」 「あの……病室でいいので最後に彼とお話をさせてもらいたいんですけど……」 「ごめんね、私の判断では決めれないから。とりあえず部屋に戻りましょう。あなたはロビーで待っててもらえるかな」 そう言うと看護師は麻里奈の手を引いてゆっくりと歩き出した。 言われた通りロビーで待ってみるが、特に誰かが呼びにくることなく一時間が経過した。 どこかに連れ回した張本人と思われているのか、先程の冷たい反応を見るとこのまま誰かが呼びに来ることもないように思える。 麻里奈は普通に生きてる人間だった。そして今までのことを整理すると、何か大きな病気をしており現在も入院中だが、何故か今日病院を抜け出したのではないかと推測される。 しかし、聞いておきたいことがある。呼ばれるかもわからないが、カナトは待ち続けた。 その後さらに30分程経過したとき、カナトの方へ先程の看護師が近付いてきた。 「お待たせしました。今は彼女病室にいて容態も落ち着いてるから特別に10分だけ面会していいですよ。こちらへどうぞ」 (うなが)され看護師のあとをついていく。総合病院だけあって入院病棟に行くのもなかなか時間がかかった。 「では10分経ったらまた来ます」 ある病室の前まで来ると一度立ち止まり、そう言うとまたどこかへ歩き出した。名前を見ると『一ノ瀬 麻里奈』と書かれていた。ドアをノックすると「どうぞー」と微かに麻里奈の声が聞こえたので、一息入れドアを開けた。 「本当にこんなこと巻き込んじゃってごめんなさい」 部屋に入ると麻里奈は真っ先に謝ってきた。 「いや、大丈夫ならよかった」 先程の消え入るような声ではなく、すっかり普通通りに戻っていた。 「さて、時間もないしね。なんでも答えてあげる!」 麻里奈はすっかり吹っ切れたような、すっきりとした表情をカナトへ向けた。 「じゃあ、まずは……麻里奈が着てた制服って廃校になったところのだよね?」 「おー!よくご存知で!いとこのお姉ちゃんに借りました」 「最初に会っときに、他の人から見えなかったのってなんでなの?」 「あれはね、サクラです!事前にたまたま通りがかったあの男子二人に頼んでおいたの!演技してってね」 「なるほど……。なんで俺に声をかけたの?たまたま?」 「ふふふ、そんなわけないじゃん。ターゲットは最初からカナトだよ」 「え、でも初めて会うよね?」 「うん、そうだね」 麻里奈はやけにニコニコとした表情を浮かべている。 「正解教えてほしい?」 「当然!」 「カナトは自由でいいよなー」 いきなりまったく話の流れと関係ないセリフに戸惑ったが、ふとつい最近どこかで聞いたことのあるようなフレーズだということに気付いた。 「気が付かないか。かれこれ1年以上ずっと遊んでたのに!」 ハッとした。そう、昨日も通話で遊んだキリヤのセリフだった。 「き、キリヤ!?えっ!?なんで!?キリヤは男でしょ!」 その反応に麻里奈はクスクスと笑った。 「ごめんなさい、キリヤは私でした。声はボイスチェンジャーです。SNSの画像は親戚の高校生の男の子に協力してもらってました」 「病院でゲームしてたってこと?」 「そうそう、こっそりね。個室だったからね!通話途中によく切れたりしてた時があったのは看護師さんが見回りにきたときとか」 まったく予想していなかった結末にさすがに驚きを隠すことはできなかった。騙されていたという怒りや不快感はなく、むしろどこか嬉しささえあった。 「いやー、とりあえずすごいわ。なんかすごいしか言えない」 「騙しててごめんなさい。最後にあなたに会ってみたくて。学校や外見も知ってたし、今までの雑談の中でだいたいの住所も見当ついたから、あとはどうにか会えるかなって!会えなかったらそういう運命ということで仕方ないかなってね!」 笑ってる麻里奈を見ながら、最後にどうしても聞いておかないといけないことがあると決心を固めた。 「なんでこのタイミングで無理矢理病院抜け出して会いに来たの?」 「うん、3日後手術なんだ。明日違う病院にも移るしね」 「病状は結構やばいの?」 「んー、お医者さんの話では手術成功は50%くらいだって。成功しても日常生活を取り戻せるようになるかはまた別の話みたいだけどね」 「そっか……」 少しの間沈黙が病室を包む。 「ねぇ、もし無事に成功して、普通の生活を過ごせるようになったらさ」 「はーい、お時間ですよー」 麻里奈が話し始めるとほぼ同時に病室のドアが開いた。 「あっ、早いね。もうお別れか……」 麻里奈が悲しげな表情を浮かべる。しかし看護師の雰囲気からこれ以上の延長は無理だと悟った。 「今言いかけたことって」 「またいつか、絶対に会おうね!さっき言いかけたことはその時に言います!」 麻里奈がカナトのセリフをわざと打ち消すかのように言った。そして満面の笑みで手を振った。 「わかった!絶対にまた会おう!約束だぞ!」 病室から出て、ドアが閉まる最後の瞬間までお互いがお互いを見続けた。 いつもと変わらない朝。 いつも通りに準備をして家を出る。 あれから一年経つが今だに通学路を歩くときは、透き通るような肌の美少女が佇んでいないかと辺りを見渡してしまう。 変わらない朝ではあるが、何故か今日は少し違うような、そんな気がしながら思いっきり玄関のドアを開けた。
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