0人が本棚に入れています
本棚に追加
学校は特に何も変わらずいつも通りである。
終業式なので、少し授業がありつつも午前中ですべて終わった。
「明日から何するの?部活も習い事もしてないよね?」
親友の啓介が茶化すように声をかけてきた。
「んー、まあゲームしてダラダラ過ごすくらいかな」
「せっかくの青春の夏休みをそんなふうに過ごしてしまうのか!もったいない!」
「そういうお前は?」
「とりあえず出会いを求めて人通りの多いところをウロウロして過ごそうかなと」
「青春とは程遠い過ごし方じゃん」
そんな他愛もない話をしながら玄関で靴を履き替え外に出ると、校門で誰かを待っているような様子の女の子が見えた。
「なんだろう、誰か待ってるのかな?てかめちゃくちゃ可愛いな」
啓介が少し興奮気味に言う。もしやと思ったが、やはり今朝知り合った幽霊の麻里奈である。目が合うとこちらへ向けて手を振ってきた。
「えっ…俺に!?じゃないよな。おまえ!知り合いなのか!?」
「知り合いというか、今朝ほんとに知り合ったばかりというか」
「お疲れ様!お待ちしてました!」
そう言えばちゃんと親友にも見えてるということは、本当に普通に接しても大丈夫な状態になっているんだなと思った。
「待ち合わせとか……そうか……これからデートか……」
悲しげな表情で啓介がつぶやく。
「ごめんなさい!少しお借りします!」
「こんなやつでよければどうぞどうぞ!……あっ」
ふと、何かを思い出したのか、考える素振りを見せた。
「どうした?」
「あ、いや、なんでもない。まっ!楽しんでこいよ!」
いきなり背中を押されて、カナトは前のめりになり少し転びそうになった。
「いこいこ!」
彼女が歩き出したのでそれに着いていくように歩く。後ろからは啓介の視線を感じた。
「どこに行く予定なの?」
「来ればわかるから!お楽しみ!」
幽霊とは思えない程生き生きとした足取りである。
と、携帯電話にメッセージが届いた時のお知らせ音が鳴った。見ると今別れたばかりの啓介からであった。
『あの女の子の制服、もう10年くらい前に廃校になった学校のやつだけど、何の知り合いなの?』
高い気温とは裏腹に背筋が凍り付く気がした。
彼女は本当に何か未練があってこの世に戻ってきたのかと思うしかなかった。
30分程歩くと大きな公園に辿り着いた。
「よし、着いた着いた。さて、私の未練はなんだと思う?」
「え、何かここの公園に落とし物でもして見つからないとか?」
「ぶっぶー!全然ちがいまーす」
そう言うと手を差し伸べた。
恐る恐るその手に重ねると、その手を握り麻里奈はまた歩き出した。
「正解は制服デートという青春がしたかったんです!」
木々が生い茂る公園内の道を手をつないだまま二人は歩き続けた。
「どこに向かってるの?」
「内緒ー!来ればわかるよ」
公園内にはジョギングをしている人、犬の散歩をしている人、ベンチに座って読書をしている人など様々な人がいる。
周りから見れば自分達は普通の高校生カップルに見えるのだろうなと思う。それにしても、麻里奈の手はとても温かく普通に生きてる人と変わらない。
もし普通に生きてる人であるなら、是非こんな彼女が欲しいなとふと思った。
「この上だよ!もう少し!」
公園内を歩いていくと、石段がかなり上まで続いてる場所に来た。そう言えば、近所の大きな公園の中に何かのご利益のある神社があると聞いたことがあるのを思い出した。が、肝心のその中身は思い出せない。
30℃程はあろう気温に繋いでいる手も汗ばんでくる。
「ふぅ、結構疲れるね」
よく見ると麻里奈の額にも汗が滲んでいた。
「ねぇ」
「ん?どしたの?」
「汗かいてるけどさ、本当に死んでるの?」
「今の状態の体は生きてる人間とまったく同じだと思っていいよ。ふぅ、ほら!着いたよ!」
石段を登り切ると鳥居と境内が見えた。
「ここはね、知る人ぞ知る恋人の聖地なんだよ!公園の入り口から賽銭箱の前まで、一度も手を離すことなく辿り着いたら二人は結ばれるんだって」
鳥居をくぐり一度も手を離す事なく賽銭箱前までたどり着いた。
「もう手を離して大丈夫だよ!はい、鈴を鳴らすからね」
鈴の音が辺り一面に響いた。
「よしっ!これで私の未練は終わり!お付き合い頂いてありがとうございました!」
そう言うと麻里奈は深々とお辞儀をした。
「これで成仏するの?」
「どうなんだろうねー、実は私もあまりわかってないんだ。そのうち消えるかも!」
少し照れた様子を見せながら軽く笑った。
「あれ?麻里奈だよね?」
突如二人が今まで登ってきた階段の方から呼びかける声が聞こえた。
「本当だ!久し振り!体大丈夫なの?」
振り返ると制服を着た女子校生4人がそこにいた。
呼ばれた麻里奈の方を見ると、なんともバツの悪そうな表情をしている。
「あー、なんとかね!」
「こちらは彼氏さん?」
「違う違う!ちょっとやりたいことがあって手伝ってもらってたの!」
「でも元気そうでホントよかった!邪魔したら悪いから、今度ゆっくり話そう!」
そう言うと、女子校生達は登ってきたばかりの階段をそそくさとまた降りていった。
「えーっと、どういうこと?」
「あーえっと……生前の友達……」
「それはちょっと無理があるんじゃ」
「ですよねー……」
いかにも困った様子の麻里奈だったが、前ぶれもなく突如として苦し気な表情を浮かべながらその場に座り込んだ。
「ど、どうしたの!?大丈夫!?」
「ごめん……大丈夫。少し休めば……」
そう言いながらも表情はかなり辛そうであった。
「もう少し休めば……また歩けるようになるから……。ごめんなさい……タクシー呼んでもらっていいかな……」
「わかった!ちょっと待ってて!」
石段を駆け下り、公園を出るとすぐにタクシーは見つかった。事情を説明して少し待っててもらい、麻里奈の方へ戻るとふらふらしながら石段をなんとか降りてきたところで合流した。
「タクシー待っててもらってるからゆっくりで大丈夫だよ。あと心配だから俺もついていくわ。どこまで行くの?」
「こんな感じになっちゃうとはなぁ……ばれたくなかったなぁ……」
弱々しくそう言うとポケットから財布を取り出し、さらにそこから一枚のカードを取り出した。
それは総合病院の診察券だった。
最初のコメントを投稿しよう!