急転直下

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翌日、僕は勇気を出して菊田さんに『昼休みに少しは話そう』とLINEで送った。 既読はついたが返事は来なかった。 僕たちの教室から渡り廊下を通って一番奥にある、普段誰も使われない視聴覚室。 そこの後ろのドアは、鍵が壊れていて施錠されていないことを僕は知っている。 昨日、薬を飲んだからだろうか。 今日はやけに調子がいい。 視聴覚室で待っているとしばらくして誰かがやってきた。 LINEで伝えた通り後ろのドアから菊田さんが入ってくる。 いつもの取り巻き達はいない。 うまく誤魔化して抜け出して来れただろうか。 クーラーの効いてない蒸し暑い教室で僕らは神妙な顔をして向かい合う。 「あのさ」 菊田さんと同時に言った。 「菊田さんから言っていいよ」 「佐野くん、この間のLINEのことなんだけど、返事はまだしないでほしいの」 一体どう言うことだろう。 菊田さんは続けた。 「すごく失礼なことなんだけど、私、佐野くんのこと本当に好きか分からなくなっちゃって。ある時はカッコいいなって思える日もあるんだけど、ある時はそうじゃない日もあって。自分でもよくわからないんだけど……」 僕は黙って聞き、菊田さんはうつむきながら話している。 外で鳴くセミが教室をより一層、暑くする。 「私から告白しといてこんなことを言うのはおかしいし、すごく失礼なことを言ってるのは分かってる。でも、あの告白はなかったことにしてほしいの。本当に本当にごめんなさい」 菊田さんは深々と頭を下げる傍らで僕は唖然とした。 この人は二重人格なのだろうか。 昨日や一昨日のLINEとは、まるで言ってることが逆ではないか。 この数日間、僕がどれだけ悩んだと思ってるのだ。 少し怒りも覚えた。 肌にへばりつく汗ばんだシャツが不快感を増幅させる。 だが、冷静になってみればそうだ。 僕たちはお互いを知らない。 言い換えればお互いのことを知れば付き合える可能性もあるのではないか。 僕は菊田さんに提案した。 「僕たちはお互いのことを知った方がいいと思う。明日、もし時間があるなら少し話をしない?」 明日は土曜日だ。 菊田さんは友達の目を気にするかもしれない。 長時間話すには学校以外の方が都合がいいだろう。 「明日はお昼なら大丈夫だよ」 菊田さんはうつむいたまま答えた。 僕たちは明日の昼に駅前の喫茶店で落ち合うことにした。
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