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表裏一体
今日は菊田さんとのデートである。
クローゼットを開け、自分が持っている一番お洒落な服を探す。
いつ買ったのか、覚えていないが一着だけある、ブランドもののシャツに腕を通す。
姿見で自分を確認すると、鏡越しに緊張しているのがわかる。
自分の顔がいつもと違うようだ。
目はつり上がり、二重になっている。
いつもの冴えない顔より良く見える。
もう一度、鏡を見る。
違う。
これは自分ではない。
一体誰だ。
お前は誰だ!
鏡に触れたとたん一瞬、意識が遠のき気がつくと四方を暗闇に包まれた空間に居た。
ある一点を遥か上空から差し込む光がスポットライトのように照らす。
さっきまで自分の部屋に居たはずなのにここはどこだ。
暗闇からコツコツと誰かが歩く音が響く。
やがてそいつは照らされた一点の元に立った。
あの男だ。
つり目に二重、それ以外の顔のパーツは全て僕と同じなのに雰囲気がまるで違う。
ブランド物のシャツも着こなしている。
「お前は誰だ!」
僕の声が響き渡り 、やがて暗闇に吸い込まれていく。
「俺はお前だ!」
男は答えた、そして続ける。
「正確には俺もお前も一緒だ」
僕は状況が飲み込めず、困惑する。
「いいか、分かりやすく説明してやろう。小百合ちゃんが惚れてるのは、俺だ。お前じゃない。このシャツを2万円で買ったのも、小百合ちゃんとスタバでデートしたのも俺だ。お前じゃない。そりゃ小百合ちゃんも驚くよな。あれだけ俺と楽しく喋ってたのに次の日には冴えないお前がいるんだから。」
この前財布からお金が無くなっていたのは、こいつが使ったというのか。
「どういうことだ。ぼくはそんなシャツを買った覚えもない。僕のお金を勝手に使ったのか。」
「お前は俺が意識を持っているときの記憶が無くなるらしいな。まぁ慣れればそのうち記憶できるようになるだろう。確かに、一昨日、財布の金からこのシャツの代金もデート代も払った。だが、これは俺の金だ」
「黙れ、偽物!僕の体から出ていけ!」
僕の声を張り上げた声が響き渡る。
「誰が偽物だ。お前はお前が本物で俺が偽物だと思ってるのだろう。俺からしたら逆だ。俺が本物でお前は偽物だ。俺は遊びたいときに遊ぶだけだ。それ以外のめんどくさいことはお前にやってもらったほうがいい。まぁそんなにカリカリするな。俺達はうまいことやった方が得なんだ」
怒りで顔が赤くなるのが自分でもわかる。
あいつが偽物なんだ。
僕の体で偽物の人格が悪さをしている。
二重人格なのは菊田さんじゃなく僕のほうだったんだ。
「おっと、そろそろデートの時間だ。とりあえず今日のデートは任せとけ。悪いようにはしないさ」
男はそう言うとゆっくりと光に吸い込まれていく。
薄れいく僕の意識の中で力の限り叫んだ。
「俺の体を返せ!」
そこに男の姿はなく、暗闇が広がるだけだった。
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