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災厄の匣
足早にその場を離れてユルグらは雨林の中を進んでいく。
しかし、順調に見えた道行きは、突如終わりを告げた。
「あれは……祠か?」
目の前にはこの場所に不釣り合いな人工物があった。
苔が生え蒸して、びっしりと蔓で覆われているそれは、何かを奉る為の場所だろうか。建てられてどれほどの年月が経過しているのか知れないが、相当な年代を感じさせる。
「きゅうけいしていく?」
「……そうだな」
ちょうど、小雨に降られていたところだ。
先の魔物との戦闘での疲労もある。少しだけ休憩しよう。
入り口は硬く石扉で閉ざされていた。一度も開かれていないのか。開閉痕が見当たらない。しかし、この祠の形状にはおかしな点がある。
こうして扉は強固に閉ざされているというのに、屋根が吹き抜けなのだ。崩れた訳では無い、元からこういう構造のようだ。これでは外壁を伝って中に侵入できてしまう。
「どうなってるんだ、これ」
なんとも不気味である。気にはなるが、ただの興味本位の行動は身を滅ぼしかねない。特にこういった得体の知れないものには、最大限の注意を払うべきである。
詮索をやめて、ユルグは苔むした外壁に背を預けて座り込んだ。
しかし――
「ユルグ、みて!」
「お前、何やってるんだ」
ユルグの思い虚しく、フィノはいつの間にか祠の壁を伝って屋根に乗り上げていた。
「勝手に行動するな。降りてこい!」
「ええー」
「ええー、じゃない。休憩してるのに余計に体力使ってどうするんだ」
「でも、すごいのあるよ」
「すごいの」とはなんとも抽象的で捉え所が無い。そんな説明ではフィノが何を言いたいのかはユルグには伝わらなかった。
「すごいのってなんだ」
「うーん、みればわかる」
「質問の答えになってないぞ」
苦言を呈して、「いいから戻ってこい」と声を張り上げる。
そこまで言って、やっとフィノは渋々と踵を返す。
けれど、脆い外壁に体重をかけたせいか。いきなり崩れた瓦礫にバランスを崩して、向こう側へとフィノは落ちていった。
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