一章◆お見合い

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*** 仕事の昼休憩中、友人の愛美とカフェで待ち合わせをしてランチの約束だ。 お互いなかなか時間を合わせられないので、職場が近いこともありこうやってたまにランチをする。 「で?お見合いどうだったのよ?」 メールや電話で連絡を取ってはいたが、今日は直接杏奈に問い詰めてやろうとばかりに愛美は身を乗り出す。 「んー?何かすごい優男だった。」 サンドイッチの付け合わせのポテトをフォークでつつきながら、杏奈がぼそりと言う。 「優男?!杏奈に似合わないわー。」 「どういう意味よ。とにかく真面目で優しい感じ。成り行きで2回会って、メガネ買いに行ったわ。」 「はっ?なぜにメガネ?」 お見合いしてメガネを買いに行くなんて聞いたことがなく、愛美は不思議そうな顔をする。 「だから、成り行きだってば。」 まったく理解できない愛美は眉間にシワをよせながら訝しげに聞く。 「ねえ、それデートなの?」 「いや?違うでしょ。」 あまり時間もないのでサンドイッチを頬張りながら大まかなことだけを愛美に伝えると、愛美は手を叩いて笑いだした。 「何かさ、優男っていうか一歩間違えればヘタレ?って感じ?ウケる。」 「ヘタレ?!」 「だって、話だけ聞いてると何か頼りないというかもう一歩って感じなんだけど。」 確かに愛美の言うとおり、頼りなさげな部分は少し感じた。だけどそれをカバーするほどの優しさが広人にはあるとも思えた。 そう考えてしまったことに、杏奈は打ち消すように頭を振る。 「何面白がってるのよ。私は断るつもりよ。成り行きで2回会っちゃっただけだし、そもそもお見合いなんて受けたくなかったんだからね。」 「いやいや、案外気の強い杏奈と合うかもよ。杏奈がリードしてあげなよ。」 「え?嫌よ。何で年上の男性をリードしなきゃいけないのよ。こっちがリードしてほしいわよ。」 そう言って、杏奈は残りのサンドイッチを口に押し込む。 リードしてほしいなんて考えてしまった自分に驚きを隠せず、打ち消すように水を一気に飲んだ。
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