二章◆山あり谷あり

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だが、そもそも断ったのは杏奈なのだ。 広人と何度か会っていい感じだと思えることも多々あった。 広人の発言だって、思わせ振りなことを言っていたようなそうでもないような、今となってはよくわからないけれど、でも好意は持ってくれていたのではないかと思える。 ただ、はっきりとした言葉を聞くことはできなかった。 (広人さんは私のこと、どう思っていたんだろう?) 杏奈にとって、こういう経験は初めてだ。 学生の頃から女磨きだけはバッチリしてきた。 生まれもった容姿は“美女”なんて持て囃されるくらいで、雄大と共に「美男美女だね」なんて言われていたくらいだ。 雄大と付き合っていても、声をかけてくる男性は数多といた。 杏奈自身もそれを一種のステータスのように感じていたし、自信にも繋がっていたのだ。 (…なのに。) 広人のことを考えると妙な怒りがふつふつと込み上げてくる。 気に入ってくれたのなら“好き”とか“付き合おう”とか、言ってくれてもいいものなのではないか。 (だってそうじゃなきゃ、次も会いたいだなんて思わないでしょう?) 3回も会っておいて、連絡先すら交換しなかった。 もちろん杏奈から切り出してもよかったのだが、何となくプライドが邪魔をして聞けないでいた。 よくわからない態度の広人も、期待してしまって自己嫌悪に陥る自分自身にも、杏奈は苛立っていた。 「はー、むかつく。」 毒を呟いたところで、前から歩いてきた人とおもむろに目が合ってドキリとする。 今しがた杏奈の頭を悩ませている広人その人だったからだ。
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