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だが、そもそも断ったのは杏奈なのだ。
広人と何度か会っていい感じだと思えることも多々あった。
広人の発言だって、思わせ振りなことを言っていたようなそうでもないような、今となってはよくわからないけれど、でも好意は持ってくれていたのではないかと思える。
ただ、はっきりとした言葉を聞くことはできなかった。
(広人さんは私のこと、どう思っていたんだろう?)
杏奈にとって、こういう経験は初めてだ。
学生の頃から女磨きだけはバッチリしてきた。
生まれもった容姿は“美女”なんて持て囃されるくらいで、雄大と共に「美男美女だね」なんて言われていたくらいだ。
雄大と付き合っていても、声をかけてくる男性は数多といた。
杏奈自身もそれを一種のステータスのように感じていたし、自信にも繋がっていたのだ。
(…なのに。)
広人のことを考えると妙な怒りがふつふつと込み上げてくる。
気に入ってくれたのなら“好き”とか“付き合おう”とか、言ってくれてもいいものなのではないか。
(だってそうじゃなきゃ、次も会いたいだなんて思わないでしょう?)
3回も会っておいて、連絡先すら交換しなかった。
もちろん杏奈から切り出してもよかったのだが、何となくプライドが邪魔をして聞けないでいた。
よくわからない態度の広人も、期待してしまって自己嫌悪に陥る自分自身にも、杏奈は苛立っていた。
「はー、むかつく。」
毒を呟いたところで、前から歩いてきた人とおもむろに目が合ってドキリとする。
今しがた杏奈の頭を悩ませている広人その人だったからだ。
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