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「…広人さん。」
「え?杏奈さん?」
広人は驚きつつも、杏奈に優しい笑みを向けた。
「こんばんは。こんなところでどうしたんですか?あ。またそんな格好をして。」
広人の目線が杏奈の肩の辺りを指す。
その目線を辿って、杏奈は自分の肩を見た。
もう夏も終わりだというのにノースリーブのワンピースだ。
ストールを羽織ってたはずなのに、そういえばいつの間にかなくなっている。
忘れてきたのか落としたのか、酔っぱらっているので全く覚えがない。
指摘されたことで急に寒さを感じてしまって、杏奈は身震いひとつ呟いた。
「…寒い。」
お酒で火照っていた体は、夜風を浴びてだいぶおさまっていた。
広人は自分の着ていた上着を脱いで、杏奈の肩に掛けてやる。
「とりあえずこれでも着てください。風邪をひきますよ。」
上着を掛けられてもぼんやりと広人を見るだけの杏奈に、広人は甲斐甲斐しく袖を通してやる。
杏奈は黙ってそれに従った。
「もしかして酔ってます?家まで送りましょうか?」
杏奈から香るほのかな酒の臭いに気付いて広人が言う。
もう二人は何でもない関係だ。
“お見合い”はもう終わったのだ。
それなのに広人は前と変わらず優しく杏奈に接してくる。
そんな態度に杏奈はまたふつふつと怒りが込み上げて、キッと広人を睨んだ。
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