二章◆山あり谷あり

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「…広人さん。」 「え?杏奈さん?」 広人は驚きつつも、杏奈に優しい笑みを向けた。 「こんばんは。こんなところでどうしたんですか?あ。またそんな格好をして。」 広人の目線が杏奈の肩の辺りを指す。 その目線を辿って、杏奈は自分の肩を見た。 もう夏も終わりだというのにノースリーブのワンピースだ。 ストールを羽織ってたはずなのに、そういえばいつの間にかなくなっている。 忘れてきたのか落としたのか、酔っぱらっているので全く覚えがない。 指摘されたことで急に寒さを感じてしまって、杏奈は身震いひとつ呟いた。 「…寒い。」 お酒で火照っていた体は、夜風を浴びてだいぶおさまっていた。 広人は自分の着ていた上着を脱いで、杏奈の肩に掛けてやる。 「とりあえずこれでも着てください。風邪をひきますよ。」 上着を掛けられてもぼんやりと広人を見るだけの杏奈に、広人は甲斐甲斐しく袖を通してやる。 杏奈は黙ってそれに従った。 「もしかして酔ってます?家まで送りましょうか?」 杏奈から香るほのかな酒の臭いに気付いて広人が言う。 もう二人は何でもない関係だ。 “お見合い”はもう終わったのだ。 それなのに広人は前と変わらず優しく杏奈に接してくる。 そんな態度に杏奈はまたふつふつと怒りが込み上げて、キッと広人を睨んだ。
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