三章◆微睡み

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三章◆微睡み

あたたかい微睡みの中にいるととても気分がよくて、ずっとそこに留まりたくなる。 けれどそれは自分の意思とは関係なく突然に現実に引き戻されるのだ。 「あー頭痛い。」 杏奈は無意識に呟いて枕元に手を伸ばす。 枕元にはいつも時計が置いてあるのに、どこを探ってもいつもの感触がない。 おかしいなと思い重たい瞼を開けて、更に重たい体を反転させた。 その瞬間、杏奈は時間が止まったように凍りつく。 「え、ちょっ、えっ?ここどこ?!」 初めての景色に勢いよく飛び起きた。 自分の部屋だと思っていた場所は、まったく知らない場所だ。 「ちょっと待って。昨日どうしたっけ?」 痛む頭を押さえながら、必死に昨日の記憶を手繰り寄せる。 (愛美とやけ酒をした後にコンビニに寄って、吐いて、それを広人さんに見られて、それでどうしたんだっけ?) 広人といろいろ会話をし、自分の醜態を晒したことまでは覚えている。 なのにその後の記憶がまったくない。 お酒で吐くことすら初めてだったのに記憶までないなんて、杏奈は顔面蒼白になった。 「やばっ…。」 まずはここがどこなのか確認しなくてはいけない。 杏奈はベッドからのそりと起き上がると、目の前に見えている扉にそっと手をかけた。 カチャリと小さな音を立て開いた扉の隙間から、用心深く向こう側を覗く。 ダイニングテーブルらしきものに誰かが座っていて、はっと息をのむ。 よくよく目を凝らして見てみるとどうやらそれは広人で、ノートパソコンを開いて何か作業をしていた。 おもむろに目が合い、杏奈はビクリと固まり、広人ははっと顔を上げた。 「…えっと…。」 ゆっくりと扉を開けて広人の方へ歩を進めると、広人は立ち上がって頭を下げた。 「杏奈さんすみません。」 「へ?!」 突然の謝罪に杏奈はますます混乱する。 何かされたのかと、思わず自分の姿を見てみるが、昨日と何ら変わらないノースリーブのワンピース姿だ。 そういえば貸してもらった上着は着ていない。 だがそれが謝罪に繋がるかというと疑問だ。
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