三章◆微睡み

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そのことがきっかけで杏奈は早瀬設計事務所を退職し、実家が経営する三浦建設へ再就職を果たした。 過去のことは忘れよう、心機一転頑張ろうと思ってやってきたのに、この様だ。 広人は、突っ伏したままの杏奈に控えめに問いかける。 「その人のこと、今でも好きですか?」 「まさか?さすがにもう終わった話です。」 杏奈はガバッと顔を上げると、間髪入れずに否定した。 そう、雄大に対して未練などはないのだ。 あるとすれば琴葉に対する酷い暴言の数々。 そのときは何も考えられなかったけど、ほとぼりが覚めてから分かった自分の横柄な態度は、杏奈の頭の片隅にずっとくすぶり続けていた。 こんな話を広人にしたところで何か変わるわけではない。 むしろ広人にとっては、愚痴を聞かされて迷惑な話だろう。 さぞかし嫌な気持ちになったに違いない。 「幻滅したでしょ?私、性格悪いんですよ。」 杏奈は吐き捨てるように言うと、ふいと広人から目を背けた。 醜い自分を晒したことで広人に嫌われることは必至だろう。 誰にも言えず、自分自身もこの先ずっと封印したままだったであろう気持ちを、迷惑をかけっぱなしの広人になぜか吐き出してしまった。 広人にとっては迷惑な話だろうが、ずっとモヤモヤしていた気持ちをここで吐き出せたことで、杏奈の心は少しばかり軽くなった気がした。 二人の間にはしばらく沈黙が訪れた。
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