四章◆変化

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そんな気持ちで軽く悩みながら過ごした数日後、親からまた電話があった。 親の経営する会社で働いているとはいえ、比較的大きな会社のため社内で会うことはほとんどない。 それに杏奈は家を出て一人暮らしをしているので、用事がなければ電話もしない。 「何?お母さん。」 ぶっきらぼうに電話に出ると、対照的に明るい母の声が耳に響いた。 「あなた、次の日曜空けておきなさいね。いいご縁談話があるそうよ。」 「また?」 「またって、あなたが心配だから言ってるのよ。ダメなら次を探すものでしょう?」 母のトーンは杏奈に有無を言わせず、いつも決定事項を伝えてくる。 杏奈はせめてもの抵抗で大きなため息を落とした。 「今回は先方さんがどうしてもって。」 「はぁ。前回だってそう言ってなかった?」 「そうかしら?とにかく、おばあちゃんのお知り合いだから、ちゃんと行ってきなさい。」 また祖母を言い訳に出す母に杏奈はいい加減嫌気がさすが、かといって杏奈も強く言い返すことができないのが現状だ。 広人に会いたいと思っていただけに、次のお見合い話は杏奈に暗い影を落とした。 (私に次のお見合いの話が出るってことは、広人さんだってそうなのかも。) そもそも広人とのお見合いは杏奈から断ったのだ。 それ以上、何かあるわけではない。 断られたら次の相手とお見合いをする。 そんなことは当たり前に行われる。 それがお見合いというものだ。 なのに、それを思うと杏奈は急に全身がぞわっとする感覚に陥った。 広人が他の人とお見合いをする。 上手く行けばきっと結婚もするだろう。 (すごく胸がざわつく。) カバンを開けると、あのとき借りたハンカチが返す機会を失ったまま入っていた。
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