五章◆好きな人

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なんとなく気まずい空気になったが、二人きりになったことで嬉しいやら安心したやらで、お互い目を見合わせてクスクス笑った。 そんな些細なやり取りさえも、愛しいと思えた。 平行線だと思っていたお互いの気持ちは、ほんの少し軌道を変えただけできつく絡み合っていく。 「とりあえず連絡先を交換しましょうか。」 「そうですね、では。」 杏奈が携帯を取り出そうとカバンを開けると、 「あ。」 広人に借りっぱなしのハンカチが目に入った。杏奈はそれを丁寧に取り出す。 「これ、ありがとうございました。なかなか返す機会がなくて遅くなってしまって。」 目の前に差し出されたハンカチを、広人はキョトンとした目で見る。 「ずっと持ち歩いていたんですか?」 「ええ、まあ。あ、ずっと入れっぱなしだったから汚れちゃったかな?どうしよう、もう一度洗濯を…。」 慌ててハンカチに汚れがないかを確認しようと裏表を見ていると、広人は目を細めて優しく笑う。 「いえ、そういう意味ではなくて。やっぱり杏奈さんは素敵な人だなと。」 「は?え?」 言いつつ頬を赤く染める広人に杏奈は訳がわからず首を傾げたが、広人は微笑むばかりだ。
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