第一章 リセットされた世界

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 目を覚ました私の目に最初に映ったのは、古びた天井だった。  ぼんやりと顔を横に向けると、不思議な光景が広がっていた。  小さな部屋のカーテンの隙間から漏れる夏の強い日差しと、庭にある大きな木に止まりけたたましく鳴く蝉の声。  私の部屋だ、でも。  記憶の中のここは、私の部屋なのだ。  ガバリとベッドから起き上がると軽く眩暈(めまい)がした。  いつもの感覚が、夢ではないことを物語っている。  ……、何が起きている?  いつもよりも眩暈が酷い気がする。  洗面台までの短い距離を壁によりかかるようにして歩く。  それから、鏡の中に映るを覗き込んだ。  すぐに感じる違和感。  ここ数年は肩で切りそろえられていた髪の毛、それが胸の下まであることの意味。  二十歳まではこうしてずっと髪を伸ばしていた。  待って? ちょっと待ってよ。  鏡の中のが、を睨んでいる。  右の耳たぶを強いくらいに揉み潰し、眉間に皺を寄せて焦っていた。 「あんた、誰よ!?」  答えるわけのない私自身が、こちらに向かって同じように唇を動かしているだけ。  答えてもらえない質問に絶望を感じた。  シンと静まり返った家、母はきっと今日も保育園(しごと)だろう。  リビングテーブルの上には朝ご飯にと母が置いてったトーストとメモ。  ――冷蔵庫におかずがあるから、パンを焼いて食べてね! 帰りは十八時半には帰りたいな~! いってきます! お昼ご飯代置いておくね――  あの頃のように、母が得意な笑顔の自画像イラストが添えてある。  よく見たらメモの隣には懐かしい色の五百円玉が置かれていた。  何もわからない。  覚えているのは、あの変な夢とアイツの顔だけ。  私を憐れんでいるようなあの碧の目を思い出すと、またイライラと耳たぶを引っ張ってしまった。
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