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「…失礼しました。」
数十分後、私が疲れ切った表情で職員室から出てくると、茜と萌衣が待ち構えていた。無論、萌衣は茜に連れてこられたようで、逆に申し訳なさそうな表情をしていた。
「お疲れさん。たっぷり怒られたぁ?」
ニヤニヤしながら聞いてくる茜に軽い殺意を抱いたが、そこは大人な対応で気持ちを落ち着かせた。茜と拓海のカップル姿を想像した結果なんて、口が裂けても言えないからである。
「もう最悪だよ。課題レポート出されちゃったし。」
「珍しいよね、波音があんなことするの。で、結局何が絶対駄目だったの?」
「…忘れちゃった。変な夢見てたみたいで。」
「へぇ、そうなんだ。」
…ん?なんか、茜の声のトーンが変わったぞ。
違和感を感じて2人を凝視すると、茜は隣の萌衣にコソコソと何かを耳打ちし始めた。
「な、何かあったの?」
すると、茜は萌衣の背中をポンッと叩き、萌衣を私の真ん前に移動させた。
「え?なになに?」
普段、無口で大人しい性格の萌衣が私の目をじっと見ていた。その目は優しい眼差しに見えて、何か熱いものを訴えているように感じた。
「萌衣?」
すると、萌衣は大きく深呼吸して、キリッとした表情に変えた。
「あ、あの、波音ちゃん。」
「な、何!?」
「た、拓海くんに告白…してもいい?」
「…へ?」
予想外の萌衣の問い掛けに答えを用意できなかった。昨日自分がフラれた相手を親友が好きだと知る…。単純に驚いたし、神はなんていう試練を私に与えるんだと、特に存在を信じていない神を恨んだ。
萌衣は、問い掛けに反応しない私を心配して、申し訳ない表情へと変わりつつある。その背後では、茜が私の顔をじっと見ていた。
なんだ、この状況。私は、そんな難題を今すぐに回答しないと駄目なの?
「…波音、何か答えてあげたら?萌衣、絶対に波音の許可を取らないとって、ずっと悩んでたんだ。」
だから、茜は私にしつこく拓海のことを聞いてきたんだ。やり方は乱暴でも、根は親友想いで優しいんだよな、茜は。
「…いつから。萌衣は、いつからタクが好きだったの?」
「え、えっと…意識しだしたのは半年くらい前…かな。」
萌衣は、顔を赤めながら答えた。
…半年か。たった半年の気持ち。万が一、萌衣の告白が上手くいったなら、きっと私は立ち直れないと思う。私はきっと自分自身のことが嫌いになるだろうなと思いながらも我慢ができなかった。
「私の方がずっとずっと前から好きだから。…ごめん。」
そう言い放って、萌衣と茜の反応を見ないまま足早に立ち去った。
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