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「…萌衣。」
萌衣は私の目の前に来て、じっと目を見つめてきた。萌衣の目は優しく少し潤々としてるように見えた。
「波音ちゃんも、やっぱり拓海くんのこと好きだったんだね。」
「…うん。でも、タクは私のモノじゃないし、萌衣の告白を止める権利も私にはないよ。」
「…私、波音ちゃんとは仲良いままでいたかったの。学校中の皆が、波音ちゃんと拓海くんは付き合ってると思ってるよ。」
「え!?そうなの!?」
私が目を丸くすると、萌衣はフフフと可愛く笑った。
「ねぇ、波音ちゃん。今日、部活サボっちゃわない?」
「…へ?」
こんな萌衣は見たことがなかった。そもそも萌衣と2人きりで出掛けたことはなく、必ず茜が間にいた。萌衣を見ると、少しビクビクと震えているように見えて、萌衣も何か無理してるんだと感じ、私は頷いた。
校舎を出ると、グラウンドではサッカー部が練習していて、当然、拓海の姿もあった。萌衣をチラリと見ると、萌衣も拓海をじっと見つめていた。
「サッカー部も夏の大会に向けてラストスパートって感じね。拓海くんも気合い入ってる感じだし。」
「うん。拓海はこの大会に結構かけてるみたいで。」
「…そうなんだ。」
萌衣の寂しげな返事で、私は、しまった!と思った。自分の知らない拓海の話をされるのは不快なんだろうとすぐにピンときたからだ。
「も、萌衣、どこにいく?」
「…海、見たいなぁ。」
「海…か。」
昨日も拓海と一緒に行ったとは言えず、笑顔で同意し、海岸までの20分間は、他愛も無い話をしながら歩いた。
部活の時も中々2人きりになるタイミングもないため、ほんとに新鮮な時間で、2人きりで話をすると、萌衣の新たな面を知ることができて楽しく感じた。
好きな服のブランドが一緒なこと、音楽の趣味も合うこと、結構おっとりしているイメージがあったけど、料理やテレビゲームが趣味だというのも初めて知ることができた。
そして、見た目は勿論、中身もとても可愛い子だなと改めて感じた。もし、萌衣が拓海に告白したら、拓海はOKを出しそうな気がした。
「…萌衣はさ、タクのどこが好きなの?」
突然の拓海の話題に、萌衣は少し考えてから答えた。
「それは海についてから話そうかな。」
萌衣はそう言うと、遠くに見え始めた海岸目指して走り出した。
「ちょ、萌衣!?」
萌衣は、くるりと振り返り満面の笑みをした。
「早く行こ、波音ちゃん。」
夏の青空をバックに、陽射しに照らされた笑顔の萌衣は、それはそれは可愛く、同性の私でさえドキッとさせられた。
「もう!」
私も萌衣を追い掛けて走り出した。
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