幼馴染みへの恋敵

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そのままスマホの電源を入れることなく、風呂に入りに1階に降りると、父親が仕事から帰宅してきたところだった。 「おかえりなさい。」 「おう、波音。ただいま。風呂か?」 「うん。…父さん、仕事大丈夫なの?」 「大丈夫って…あぁ、あのことか。波音が気にすることじゃないよ。ほら、風呂入ってこい。お前が出なきゃ父さんが入れないんだから。」 私は頷いて、洗面所に入って扉を閉めた。 私は消防士の父が心配だった。先日、父が可愛がっていた後輩の消防士が、火事の現場で殉職した。その消防士は、燃え盛る炎の中、取り残された人を助けに飛び込んで行ったらしい。結局、取り残された人も助からず、その消防士も亡くなった。映画やテレビドラマみたいなハッピーエンドは、現実にはそうそうないんだと、私は理解した。 父は、その日から元気が無いように感じていた。当たり前と言えば当たり前なのだが、いつか父も同じように仕事中に亡くなったりしないだろうかと、心配していた。だから、周りから見れば、私自身も元気が無いように映っていたかもしれない。 拓海は、そんな私の変化を一瞬で見抜き、「何かあったの?」と問い掛けてくれた。いつも私のことを見てくれているんだとわかって嬉しかった。 拓海が心の拠り所なんだと、改めて気付かされたんだ。 「ふぅ〜。」 湯舟に浸かると、頭が一瞬スッキリするような気がして、色々と考えてしまう。さっきまでは父のことで頭がいっぱいだったが、拓海の電話のことも思い出してしまった。 きっと、拓海はまた私に電話を掛け続けてるんだろう。でも、兄としての拓海は、私の求める拓海じゃない。それは、自分でも曲げることはないと思う。でも、拓海としては恋人としての私は必要ない…うん、折り合いつかないな。 「…明日、どんな顔して会えばいいんだ。」 悩みながら、湯舟の中に頭まで潜り込んだ。
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