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「…波音。波音、目を覚まして。」
名前を呼ばれて目を覚ました。上半身を起き上がらせると心地よい風が通り抜け、視線を横に向けるとさざ波が揺れ、ぼんやりとした月明かりが海面を幻想的に照らしていた。
自分の部屋のベッドに居たはずなのに、ここは…海?
驚いて立ち上がり、360度見回した。すると、背後に声の主が立っていた。
「…開波(かいは)。」
開波は、私に向かってニコッと微笑んだ。
「開波、どうして。」
「波音に逢いたくなったんだ。元気そうで良かった。」
開波の笑顔を見て、自然と涙を流していた。
「…兄貴をよろしく頼むよ。兄貴には波音が必要なんだよ。」
「でも、私…。」
「波音らしくないな。波音はいつも明るく前向きだったろ。僕も何度もそれに救われてきたんだ。」
「開波…。でも、私、あなたの最期の時には何も…。」
「フフフ、そういうとこも波音らしいけど、君が気にすることじゃない。僕は、ずっと君を見守ってるよ。」
開波はそう言うと、宙に浮き、沖に向かって空中をゆっくりと移動し始めた。
「開波!!」
寝間着のまま海に飛び込んで開波を追い掛けた。開波は、私に微笑みかけながら手を振っていた。
「開波ぁ!…っ!?」
急に足がつりだし、激痛に襲われると、私はハッと目を覚ました。
「…え?」
上半身を起き上がらせると、間違いなくベッドの上だった。カーテンも閉めずに寝てしまったらしく、部屋には目覚まし変わりの陽射しが降り注いでいた。
「…夢…か。」
目を擦ると、涙が溢れていることに気が付いた。
「開波の夢、久しぶりに見たな。」
夢の内容を今までに無いくらいハッキリと覚えていた。この夢は、きっと夢じゃなく、開波が私の中に現れてくれたんだと思った。
何だか少し、心が軽くなったように感じた。
今日もまた1日が始まる。
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