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私と拓海はクラスが違うため、先に到着する私のクラスの前で拓海と手を振って分かれた。
…ふぅ、とりあえず朝は予想より良い感じで過ごせたな。それに私、やっぱり拓海が好きなんだなぁって改めて感じた。あんなに落ち込んでいた昨日が嘘みたい。
笑みを浮かべながら、窓側の自分の席に座り、今日も快晴の夏空を眺めた。
「なぁにニヤけてんのよ。」
すぐ後ろの席の茜が、私の背中を突きながら言った。私は表情を戻しながら身体ごと振り返った。
「ニヤけてなんかないよ。」
「ふーん。拓海くんいいよね、イケメンだし、身長高いし、そしとサッカー部のエースだもん!波音、勿体ないよ。」
…言われなくてもわかってるよ。
「でも、タクは勉強はあんまり出来ないし。」
「そんなの気にするポイントじゃないって!勉強なんて並でいいのよ、並で!拓海くんファン何人いると思ってんのよ。」
「…へぇ、あいつそんなにモテるんだ。」
「かぁー、波音はわかってないわね。」
…拓海のことなら私が1番よく知ってるわよ。どうせ皆、表面しか見てないんだから。
「波音は、拓海くんを誰かに盗られてもいいの?」
…良いわけがない。
「べ、別に…。」
強がってそう言いながら前に振り向いた。
「そう。じゃあ、私が貰っちゃおうかなぁ。」
茜がぼそりと呟いたのが聞こえたが、私は聞こえないふりをした。
それから、すぐに朝礼と1時間目の授業が始まったが、茜の言葉が妙に頭に居残ってしまい、全く授業に集中できなかった。
私は拓海が茜と付き合っている光景を頭の中で描いていた。手を繋ぐ2人、楽しそうに笑い合う2人、見つめ合う2人、それからその先に…
「絶対ダメェェ!!」
思わず自分の妄想に大きな声でツッコミを入れてしまい、教室内の視線をライブ会場のアイドルの如く独占してしまった。
「一乗谷(いちじょうだに)さん。何が絶対駄目なんですか?」
ベテラン男性教師の古尾谷(ふるおや)が、私を鋭い眼差しで見つめながら優しく問い掛けた。古尾谷が優しい時は逆に怒っている時だとわかっている私は、顔を真っ赤にして頭を深く下げた。
「すみません。何でもありません。」
クスクスと教室内に起こる笑い声に、死んでしまいたいくらい恥ずかしくなった私は、視線を上げることが出来なかった。
「…一乗谷さんは、後で職員室に来るように。」
古尾谷はそれだけ言うと、再び板書を始めた。
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