プロローグ

2/4
91人が本棚に入れています
本棚に追加
/229ページ
 少し先に雲の切れ目が見えて来る。 (あそこ! 地面が見えるでしょう?)  頭に響く愛夢の声に頷いて、身体を捻るとその切れ目に飛び込んだ。  雲の回廊の先、緑の大地が見える。私は回転しながら回廊の出口に向かって急降下していた。  あっと言う間に雲の下に出た。その瞬間、緑の草原に覆われた外輪山、そして中央の盆地とその真ん中に(そび)え立つ火山が見えて来た。 「あれはカルデラ……。阿蘇山……?」  私は自分の記憶の中にある風景を思い出していた。 (見て、あそこ……)  愛夢のイメージが示す先、緩やかな起伏が連続する草原の一部が切れて人工的なコンクリートで覆われた外輪山の上の展望台に、一人の男性が立っているのが見える。  彼を遥か下方に見降ろす。彼は上空を見上げていたが、私に気付いたのか右手を振っている。  私は彼を中心にゆっくり回転しながら降下して行く。  そして彼の目の前に緩やかに両足で着地した。  彼が満面の笑顔で私を見つめてくれる。 「やあ、愛理、そして愛夢。待ってたよ」  私は大きく頷いた。 「うん、航太と翔太。も逢いたかった……」
/229ページ

最初のコメントを投稿しよう!