0人が本棚に入れています
本棚に追加
実家に戻り、夕飯を食べながらポツリと呟いた。
「剛志、なんで辞めたんだろ、、何か知ってる?」そんな琴美の問いかけに和喜は「また剛志くんけ。」っと茶々を入れる。
「それがなぁ、、アイツが不憫でよ。。」父が話し出した。
高校生で保存会の地方として舞台に上がった彼は上の世代は踊りを引退して行くだけで、一向に地方が育つ気配が無い。彼は「練習をしよう。」っと声をかけるも、「歳下が偉そうに、、」っと陰口を叩かれる。高校の部活で培った世代とそうで無い世代の格差の歪み、、そんな保存会から彼は身を引いたそうだ。
「ワシらの時代やったら若い人も多かったし、、集落だけで回して行けたんやけどなぁ、、、今はこきりこも限界や。爺さんが隠居してからまとめるヤツがおらん。(居ない)」っと父もボヤいている。
「お前ら世代の若いもんが帰って来てくれりゃ起爆剤になって良いがだけどな。。」っとビールを片手に顔を覗き込んで来る父に、琴美は少し心が揺らいだ。
夕飯の片付けを済ませると、久々に実家の部屋で過ごす、部屋の模様は高校を卒業した頃のままタイムスリップしたようだった。
テレビのスイッチを入れ、なんとなく総文祭のDVDに見入る。まだあどけない自分達の姿に、ついつい「若いっていいな。」っと感慨にひたってしまう。
外からは、屋根雪の落ちる音と共に、カーンカーンと火の用事の拍子木が聞こえる。
「なんだかいいな。。本当に帰って来ようかな。。」何年たっても変わらない五箇山の音に、次第にそんな気分になってしまった。
DVDを見終わり、布団に横になっていると携帯が鳴り出した。「もしもし、琴美〜聞いたよ。お爺ちゃん倒れたって?大丈夫ながけ??今あんたんちの前やよ。電気ついとるから帰ってきとるんかな〜っと思ってかけてみたが。」幼稚園から高校までずっと一緒だった幼馴染みの永島律子だった。
携帯を片手に窓の外を眺めると、暗がりに止まる車から懐かしい顔が手を振っています。
「そんなとこ居ないで上がっていって。」
高校の同級生は35人。大学や会社の同期に聞かれると必ず「田舎だ」っと笑われる。
その内、五箇山出身の子供は21人だけど、琴美同様、仕事や結婚だったりと山に残って居るのは、琴美を除けばたった4人。
その4人とも、一緒に日本一になった大切な仲間だ。
胡弓を弾いてた律子、太鼓を叩いていた勉、部長の靖幸そして剛志。
「ちょうど、観光協会の事務所に忘れ物したから取りに来たがいぜー、、、あら、何懐かしいもんみとるんけー。」っとテレビの前に出してあったDVDを見つけ、クスっと笑みを浮かべる。
「ほんと、律子はいつもいいタイミングで来てくれるなぁ、、」っと言う琴美に、見透かしたように「考え事け?まさか山に帰ってくるとか言うがじゃない?」っと図星を突かれた。
「そうなの。お爺ちゃんの事も心配だし。。DVD見てたら懐かしくなってねぇ」そんな言葉に、律子は「あと剛志やろ?アンタが東京行くって決まってから、、、」
1番痛いところを突かれた。
最初のコメントを投稿しよう!