5

3/5
前へ
/29ページ
次へ
「万優、今日何か用事とかある?」  空とまともに逢えない日が続く中、昼休みの教室で、万優は映からそんなことを聞かれた。 「……ないけど、合コンとかは……」 「ああ、そやない。俺かて、もうあんなんたくさんや。お前と空くんと途中で居なくなってまうし、大変やったんで、この間」 「あ、ごめん……」 「ま、それはええとしてな。美味そうな店見つけたんやけど一人じゃ味気ないから、どうかな思てな」 「ああ……うん、いいよ」  映の誘いに、万優は笑顔で頷いた。  一瞬、空のことが頭を過ぎったが、ここのところ夜は顔を合わせることなく、互いに就寝しているので、特に影響はないだろう、と判断した。 「ほんま? じゃあ、今日着替えたら駐車場で」 「うん、了解」  映の提案に、万優は頷いた。  着替えて事務所を出ながら、万優は空のスマホへ電話を掛けた。留守録に今日のことを吹き込んでおこうと思ったのだ。  メールやメッセージを使わないのは、このところの二人の暗黙のルールだった。無機質な活字よりも愛しい人の声の方がずっといい、と万優は思っている。多分、空も。 『もしもし』  メッセージを入れようとしていたのに、本人が出ると、なぜか慌ててしまう。  万優は暫くの沈黙の後、声を返した。 「あ……空。珍しいね、出てくれるの」 『……そうかもな。それより、どうした?』 「ああ……今日、これから同期と食事してから帰るからって、留守録入れておこうと思ったんだ」 『ああ……そっか……うん、解った』 「遅くはならないと思うから」 『うん』 「待たなくていいからね」 『了解』  じゃあね、と言って万優は電話を切った。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

180人が本棚に入れています
本棚に追加