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「万優、今日何か用事とかある?」
空とまともに逢えない日が続く中、昼休みの教室で、万優は映からそんなことを聞かれた。
「……ないけど、合コンとかは……」
「ああ、そやない。俺かて、もうあんなんたくさんや。お前と空くんと途中で居なくなってまうし、大変やったんで、この間」
「あ、ごめん……」
「ま、それはええとしてな。美味そうな店見つけたんやけど一人じゃ味気ないから、どうかな思てな」
「ああ……うん、いいよ」
映の誘いに、万優は笑顔で頷いた。
一瞬、空のことが頭を過ぎったが、ここのところ夜は顔を合わせることなく、互いに就寝しているので、特に影響はないだろう、と判断した。
「ほんま? じゃあ、今日着替えたら駐車場で」
「うん、了解」
映の提案に、万優は頷いた。
着替えて事務所を出ながら、万優は空のスマホへ電話を掛けた。留守録に今日のことを吹き込んでおこうと思ったのだ。
メールやメッセージを使わないのは、このところの二人の暗黙のルールだった。無機質な活字よりも愛しい人の声の方がずっといい、と万優は思っている。多分、空も。
『もしもし』
メッセージを入れようとしていたのに、本人が出ると、なぜか慌ててしまう。
万優は暫くの沈黙の後、声を返した。
「あ……空。珍しいね、出てくれるの」
『……そうかもな。それより、どうした?』
「ああ……今日、これから同期と食事してから帰るからって、留守録入れておこうと思ったんだ」
『ああ……そっか……うん、解った』
「遅くはならないと思うから」
『うん』
「待たなくていいからね」
『了解』
じゃあね、と言って万優は電話を切った。
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