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 じゃあね、と言われた電話の相手は、小さくため息を漏らした。 「……久々早く帰れると思ったんだけどな……」 「……どうしたの? 空」 「いや。で、どこへ行くって?」  電話を切った空は、隣の深春に聞き返した。  さっき、空港内で呼び止められ、せっかくだから一緒に呑まないかと誘われた。車だから、と断るとじゃあ、食事だけでも、と言いながら駐車場まで付いて来ていた。  帰っても万優が居ないならつまらない。少しくらいなら、この従妹に付き合うのもいいか、と空は考えたのだった。 「あ、行く気になった?」 「ああ……まあね」  その答えに、深春はふ、と口の端を上げた。    ……誰にも知られずに。 「ところで、ほんまに良かったん?」 「え、何が?」 「空くん、待ってたりせぇへんの?」 「一緒に住んでるからって、メシまで一緒ってわけじゃないから。特に今は、帰宅時間バラバラだし」 「なら、ええけど」  映は笑って頷いた。  彼が見つけた洋風居酒屋は、家庭的な味のリーズナブルな店だった。  空とじゃ、なかなか来ないような店だ。空は自分に気を使うのか、自身が苦手なのかこういうワイワイ騒ぐような店を選んだりしない。落ち着きの分を価格に上乗せされているような店を好むのだ。  だから、万優としては新鮮で、どこかほっとした時間だった。  そう、ほっとする……思ってから万優は軽く首をかしげた。空となら、どこに居たって安心のはずなのに。例えそこが、墜落間際のコックピットでも、傾いた船内でも。この人と一緒なら、死すら恐怖となりえないのだと。  ――最近の俺……少しワガママなのかもしれない。  一緒に居られることに慣れてきて、一緒に居られないことが不満になる。見えてなかったものが、見えてくる。  まるきり、新婚じゃないか、と鼻で笑いかけてから、映の視線が注がれているのに気付いて、慌てて顔を挙げた。 「……どうか、した?」  冷静を装い、その目に聞く。 「や……万優って、見てて飽きんなあって思って」 「何、それ」 「今、百面相しとったで」 「……ほんま、ですか?」 「ほんまや。心配事でもあるん? 相談、のるで」  その言葉に万優は笑ってかぶりを振った。 「大丈夫。……おおきに」  言うと、映は頷きながら、真似すんな、と笑った。
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