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「これから、昼?」
万優は、その声に半ば嫌そうに振り返った。
オフィスに忘れ物を取りに行ったら、これだ。タイミングが良すぎる、この人も俺も。
「はい。深春さん、今日は……?」
「午後からフライトよ」
「そうですか」
映が待っている。早く行こうと万優は歩を進めた。
「万優くん」
そんな万優を深春は悠然と呼び止める。
「この間は……ありがとね。お陰で日が変わるまで傍に居られたわ。帰りも駅前のタクシー乗り場まで送ってくれたの。久しぶりに、二人で歩いたわ。楽しかった」
「……それは良かったですね」
言いながら、胸の奥が軋んだ。痛い。
「……形勢逆転、だったりする?」
「何、言ってるんですか。俺と空は友人ですよ……大事な、親友です」
だから、永遠に誰も間に入れない。そう、信じていた。疑いもしなかった。
自分が空を想って、空が自分を想ってくれて、それだけで世界は廻っていくと、思っていた。
「じゃあ、恋人のポストは空いてるわけね。ありがと」
言うと、深春は万優より先にオフィスを出て行った。
ずるいと思った。公共の場で、そんな話題を持ち込むなんて、周りの目が気になるのを知っててやってるようだ。
恋人だと、言えない様にしてるようだ。
胸が、また軋んで悲鳴を上げた。
痛い、苦しい。
――空……どうして、こんなに痛いんだろう。教えて……空。
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