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 ビジネスホテルの一室。スマホから、心配そうな声が響いていた。 『何があったん? ホテルに泊まるなんて』 「まあ、ちょっとね」  言えない。何があったかなんて、口が裂けたって言えなかった。  空の部屋を出た万優は隣の駅近くにあるビジネスホテルに部屋を取った。空はもちろん、自分も頭を冷やす必要がある。  しかしいつまでもここに居られる財力は持ち合わせていなかった。 「なあ映。明日から、お前んとこ、泊まったらまずい?」 『うん、まずい』  あっさりと言われて、万優はため息をついた。 『あー……俺やなくて、万優がまずい。空くんのこと、もっと追い詰めるような気すんねん』 「どういうこと……? だって、空は……」  友達なんだよ、と繋げようとした。けれど、先に映の声が届く。 『親友なんやろ? ――さっき、俺のこと、睨んだんや、空くん』 「……え?」 『盗られた様な気、してるんとちゃう?』 「まさか……」  万優はゆっくりとベッドに腰を降ろした。未だじん、と体の奥が痛む。 『俺なら寂しい気せんでもないけどな。これが恋人やったら、顔貸せや! くらい言うてるけど友達やったら、そんなん言えへんやん。けど、寂しいはずや、空くんも』 「そっか……そうだね」  万優は、そう言ったきり言葉を返せなかった。映は、静かに優しく、明日そっち迎えに行くから、と言って電話を切ってくれた。  何かを隠して、辻褄を合わせようとすればどこかで何かがずれて来る。それは、解っていた。  親友だ、という世間への仮面。それ故に、嫉妬しても表に出せなかった。  自分も、空も。  だからせめて二人のときには、たくさん話をしたんじゃなかっただろうか。なかなか会えなかった学生の頃、寮の片隅で近況を話し合って、気持ちを言葉で確認し合って、会えば体ごと確認して。  寄り添うほどにおざなりになっていたことだ。 「いまさら……気付いても……」  ――遅い。  そんな自分に笑いさえ込み上げる。  万優はベッドへ転がったまま歪む天井を眺めていた。
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