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「けど……良かったの? カミングアウトなんてして」
翌日の深夜。
フロアライトがオレンジに染め上げる空の部屋のベッドの上で万優が口を開いた。
「いいよ。こうして、お前が帰って来たから」
後ろから裸のままの万優を毛布ごと抱き込むようにして座る空が、そっと万優の手にそれを重ねた。
「まあ、空が言うなら、いいけど。ところで、虎珀さんと深春さんは?」
「しばらく冷却期間を置くって、虎珀が言ってた。深春はともかく、虎珀は真剣に付き合ってたから……気持ちの整理もなかなかつかないだろ。それから……お前に、ごめんって伝えてって言ってたよ」
「そっか。虎珀さんには、悪いことしたね」
「どうして?」
聞きながら、空は万優の肩口にキスを落す。
万優は身をよじって逃れながら、口を開いた。
「虎珀さんは、深春さんの彼氏なんだから、俺……あの人に言うべきだったんだ。深春さんに宣戦布告されたこと。別に律儀にあの人の言う通りにする必要もなかったんだし」
「てめぇのオンナくらい管理しろって?」
「うーん……ていうか、蚊帳の外にする必要なかったかもって」
「一理あるな」
「そうしたら、空だって怒鳴り込まれることもなかったんじゃない? 俺だって、カミングアウトする必要もなかった」
僅かに振り返って、空の顔を窺う。
空はうーん、と唸って天井を見上げた。
「どうして、万優に宣戦布告したのかって聞かれたらアウトだよな」
「あー……そっか。どの道俺、喋ってたのかも」
「後悔してる?」
抱きすくめられて、万優は前に廻った腕にそっと手のひらを乗せた。
「……実はね、すっきりしてるんだ。別に誰の許可も要らないとは分かってるけど、ずっと隠れて付き合ってる気がしてたから。なんか……ようやく空は俺のものってカンジ」
照れたように笑いながら万優が言うと、廻った腕が更に強くなった。
「そう、だな。離陸許可貰った感じか?」
「うん。そうかも」
そう言って万優が笑うと空が耳元で囁いた。
「今までもこれからも、お前のものだ」
「ホントに?」
「ああ。煮るなり焼くなりお好きにどーぞ」
おどけて言うその言葉に、万優が笑う。
「じゃあ、明日の晩御飯は空にしようかな」
「明日と言わず、今夜これからどうですか?」
空は、万優の耳元で囁いた。
ぞく、と万優の肌が震える。
「そう言って、さっきも食べたのは空のほうだろ」
「そんなことないさ。いつもきっちり『呑み込んで』るよ、万優だって」
「……っ! ……空のバカっ!」
火がついたような万優の頬に、空が唇を寄せる。
「愛してるよ、万優」
「……空……」
「こう言えば良かったんだよな。ずっと忘れてた」
「うん。変だよね。当たり前すぎて忘れるなんて」
「じゃあ、今日からは思ったことを素直に言おう。例え、当たり前のことでも」
「うん、いいよ」
「じゃあ……今、すっごく万優が欲しい。もう一回……いや、朝までしたい」
「……言い過ぎるのも、どうかな……」
万優の乾いた笑いが部屋に響く。
「万優は、どう?」
耳もとで囁かれ、万優が肩をすくめる。
「そりゃ……空と一緒だけど……」
俯く万優の頬に首筋に、と空がキスをばら撒いていく。
「なら、いいだろ。豪華ディナーにしよう」
「……シェフの特別フルコースがいいな、俺」
「お任せください」
空の言葉に、万優が笑い出す。
笑いあえる愛しい人が居る。
抱き合う指は、今までよりもずっと身近に感じる。重ねる唇はより多くの愛を語ってくれる。
傍に居るって、こういうことなんだ。
空の肩越しに見えたゆるりと浮かぶ満月。
それすらも微笑んでいるようで、万優は優しい気持ちで瞳を閉じた。
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