誕生日のプレゼント

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誕生日のプレゼント

ー起動ボタンを押してくださいー 箱を開けると、どこからか女性の声がそう告げた。  配達員2人がかりで運ばれて来たそれを、ワクワクしながら覗き込んだのを、今でも覚えている。  5歳の誕生日。 「ケイ、お誕生日おめでとう」 母が微笑む。 「これは、君へのプレゼントだよ」 父がそう言いながら、起動ボタンを押した。  極静かな起動音が聞こえ、いち、に、と数えながら待っていると、”ご”でそれはパチリと目を開けた。ドキドキと高鳴る胸を、両手で押さえながら見ていると、彼は半身を捻り起こし、自分が入れられていた箱に手をかけて、立ち上がった。  その動きは、ぎこちなさを微塵も感じさせないどころか、じつに滑らかで優雅でさえあった。  父と母の前に立った彼は、軽く挨拶を交わした。視線を母の隣に立つ私に向けると、正面に跪き、柔らかな声でこう言った。 「はじめまして、わたくし、ケイ様にお仕えいたします加藤です、末永くよろしくお願いいたします」  頭の形の良さが生かされた丸みのあるボブ、少し長めの前髪が良く似合っている、ミルク色のサラサラの髪、薄いブラウンの瞳、血色の良い唇、透き通るような肌、執事が着るような燕尾服。  何もかもが完璧で、あまりの美しさに、急に恥ずかしくなった私は、母の後ろに逃げ込んだ。そっと顔だけ出してみると、優しく微笑んでいる加藤と目が合った。 「これからよろしくお願いします」 加藤がふわりと微笑んだ。 その笑顔に何故かとても安心して、おずおずと近寄ると、加藤と手を繋いだ。 そんな私を見て、父と母が寄り添い、嬉しそうに笑っている。 見上げた加藤も笑っている。私も笑っている。 切ないまでの幸せで小さな心が満たされていった。
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