6

1/1
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

6

 とっぷりと日が暮れ、陽射しもやわらいでいた。透と父の緊張もほぐれて、笑い合うこともできた。 「帰るのか」 残念そうに父がこぼす。 「住所もわかったし、また来るから。今度は泊まりでくるから、飲もうよ」 「わかった。美味いとこ探しとくから」  ちゃぶ台から立ち上がりかけた父に透は、「あ、それと……結婚するから」と打ち明けた。 「え? おまえ、そんな大事な話今ごろ」 「ごめん。なんとなく言いそびれて……」 「そうか、結婚か、透が……良かったな」 「うん、ありがと。でさ……父さんにも式に出て欲しいんだ……」  父は驚いて透の目を見る。 「出にくかったらあれだけど、招待状は送るから。あ、式は来年の春ごろだと思う」  父は無言で、うんうんとうなずいた。  帰りの車内で透は、千賀にLINEを送った。しばらくすると既読になり、新宿駅に着くころ返事がかえって来た。 ※  二週間後の週末、透と千賀は盆踊りに来ていた。式場の帰りにケンカをしてから、三週間ぶりに顔を合わせる。お互いにすこし照れくさい。 「ごめん……」 「うん、わたしも……ごめんね……」  東京音頭の大音量にかき消されて、ハッキリとは聴こえなかったが、これで仲直りだ。  透は千賀の手をとり、「ちょっと付き合って」と歩き出した。  透は千賀の手を引き金魚すくいに来ると、テキ屋に三百円を渡してポイを受け取る。 「ここで問題。なんで俺がこの店にしたか」 「えー? なんで?」 「いや、少しは考えたら?」 「なんでよ、教えてよ!」 「ハハ! こっちの店の方がね……」  透はその後、ボールを金魚で一杯にしたが、「金魚がかわいそう」と千賀に言われて、全部を店に返した。    二人は盆踊りの(やぐら)から離れて、踊る人の輪を眺めながら、缶ビールで乾杯した。 「でも良かったね、お父さん元気で」 「うん、良かった」 「お式には、来てくれるのかなぁ」 「うーん、わかんない。招待状は出すけど」 「そーだよね……」 「うん……」 「そうだ! 秋になったら、連れてってよ。お父さんのとこ! 温泉つかりながら紅葉見てさ、お父さんも一緒に」 「お! それはナイスアイデア! ただ千賀、温泉行きたいだけだったりして」 「えー、ひどーい」  千賀が頬をふくらませたとき、ヒュルヒュルヒュルと甲高い音に、二人は夜空を見上げる。  一拍おいて、どどーん大きな花火が空を染めると、次々と色鮮やかな花が、夏の夜空を彩った。  手をつないで花火を見上げる二人の笑顔と未来を、花火が明るく照らした。 — おわり —
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!