10人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
6
とっぷりと日が暮れ、陽射しもやわらいでいた。透と父の緊張もほぐれて、笑い合うこともできた。
「帰るのか」
残念そうに父がこぼす。
「住所もわかったし、また来るから。今度は泊まりでくるから、飲もうよ」
「わかった。美味いとこ探しとくから」
ちゃぶ台から立ち上がりかけた父に透は、「あ、それと……結婚するから」と打ち明けた。
「え? おまえ、そんな大事な話今ごろ」
「ごめん。なんとなく言いそびれて……」
「そうか、結婚か、透が……良かったな」
「うん、ありがと。でさ……父さんにも式に出て欲しいんだ……」
父は驚いて透の目を見る。
「出にくかったらあれだけど、招待状は送るから。あ、式は来年の春ごろだと思う」
父は無言で、うんうんとうなずいた。
帰りの車内で透は、千賀にLINEを送った。しばらくすると既読になり、新宿駅に着くころ返事がかえって来た。
※
二週間後の週末、透と千賀は盆踊りに来ていた。式場の帰りにケンカをしてから、三週間ぶりに顔を合わせる。お互いにすこし照れくさい。
「ごめん……」
「うん、わたしも……ごめんね……」
東京音頭の大音量にかき消されて、ハッキリとは聴こえなかったが、これで仲直りだ。
透は千賀の手をとり、「ちょっと付き合って」と歩き出した。
透は千賀の手を引き金魚すくいに来ると、テキ屋に三百円を渡してポイを受け取る。
「ここで問題。なんで俺がこの店にしたか」
「えー? なんで?」
「いや、少しは考えたら?」
「なんでよ、教えてよ!」
「ハハ! こっちの店の方がね……」
透はその後、ボールを金魚で一杯にしたが、「金魚がかわいそう」と千賀に言われて、全部を店に返した。
二人は盆踊りの櫓から離れて、踊る人の輪を眺めながら、缶ビールで乾杯した。
「でも良かったね、お父さん元気で」
「うん、良かった」
「お式には、来てくれるのかなぁ」
「うーん、わかんない。招待状は出すけど」
「そーだよね……」
「うん……」
「そうだ! 秋になったら、連れてってよ。お父さんのとこ! 温泉つかりながら紅葉見てさ、お父さんも一緒に」
「お! それはナイスアイデア! ただ千賀、温泉行きたいだけだったりして」
「えー、ひどーい」
千賀が頬をふくらませたとき、ヒュルヒュルヒュルと甲高い音に、二人は夜空を見上げる。
一拍おいて、どどーん大きな花火が空を染めると、次々と色鮮やかな花が、夏の夜空を彩った。
手をつないで花火を見上げる二人の笑顔と未来を、花火が明るく照らした。
— おわり —
最初のコメントを投稿しよう!