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式場を見学した帰りのカフェで、透と千賀はそっぽを向き、目を合わせなかった。
会場の大きさ、料理、引き出物、お色直しなど、披露宴では決めることがたくさんある。細かなところで意見が食い違うと、それが積りにつもって大きな不満になる。
ウェディングプランナーの手前、式場では不満を口にしなかったが、カフェで話し合ううちに感情的になり、お互いに言葉尻がキツくなった。
真夏の日差しが眩しい窓際の席も、二人の間には重い空気がとどまっていた。
透は千賀のハッキリした性格に惹かれて付き合いだしたのだが、しんどく感じるときもある。気性の激しい母に、どことなく似ているからだ。
「ねぇ、わたし帰る」
透は聞くともなしに聞いている。
「ねぇ、帰るよ!」
「あ? あ、ああ」
「もうっ!」
千賀は音を立てて椅子を引くと、少し潤んだ目で、店を出て行った。
付き合いだしたころなら、追いかけてなだめていたが、この日は、重い空気から解放された安堵の方が大きかった。
このまま結婚していいものかと過ぎったとき、スマホに着信が入った。
「はい、若林です」
「梅沢です興信所の。いま、電話大丈夫ですか?」
「はい。え? もしかして……」
「ええ。お父さん、居場所がわかりました」
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