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「無理ダメ止めて冗談は顔だけにしてほんといい加減にして!」
数時間前の出来事を話すと、牧原さんは額に幾つもの青筋を作って言った。
「すみません……」
「ああ、ごめん! 木村くんのことじゃないの、多田のことだから」
呼び方が呼び捨てに変わった!
「入部当初から木村くんにべったりとは思ってたけど……ほんと、冗談はその特殊メイクだけにして欲しいわ」
原本先輩が言うと、冗談に聞こえない。化粧のことはよく分からないけど、そこまで顔を作ってたのか……
「それはともかく、今更話を作り直すのも難しいよな。撮影場所も決まってるし……」
編集作業や後のことを考えると、大幅変更は難しい。撮影場所を変えずに話を変えるなら、その負担は全部牧原さんにかかってしまう。
「やっぱ、代役だな……」
部長が神妙な顔で原本先輩と牧原さんを見る。2人は首と手をぶんぶんと振って拒否を示す。
「出てくれそうな子、誰かいないか?」
映研部員でなくても構わない。弱小サークルが、外部に手伝いを頼むことはよくある。
「手当たり次第聞いてみるか」
「そうだな。最悪、他校の子でも」
「本当に、すみません!」
机に頭を擦り付けるようにして謝る。せめて、撮影が終わるまで人違いに気付かないように気を付ければ良かった。
「木村は悪くないよ」
加藤先輩が、困ったように笑って言う。
「そうそう。あの詐欺メイク女が全部悪い!」
原本先輩の言葉に、みんなも神妙な面持ちでうなずいた。
どうやら、俺の元カノ多田雛乃は、みんなにかなり嫌われていたらしい。
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