彼女

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 スクリーンの中。俺と加藤先輩が海辺を歩いている。先輩が指差した堤防の先に、女性がいた。水色のロングスカートをなびかせ、幅広の麦わら帽子を手で押さえている。海辺には似つかわしくない服装の女性が、堤防から身を乗り出す。 「もしかして、飛び込むつもりじゃ……」  加藤先輩の台詞の後、俺が走り出す。 「危ない!」  叫んだ俺の声に驚いたように、彼女が振り向く。彼女の顔がスクリーンに大写しになると、客席から小さなどよめきが上がった。  俺は、足をもつれさせて彼女の側で転ぶ。海に落ちそうになった俺を、加藤先輩と彼女が慌てて助けてくれた。客席から軽い笑い声が上がる。掴みはOKだ。 「魚がいた気がしたから、見ていたの」と、笑って話す彼女。彼女のきれいな微笑みに、男どもから感嘆の声が上がった。  法事で来た彼女と、旅行で来た俺達。俺達は自然に仲良くなる。  猛烈なアプローチをする加藤先輩を軽くかわし、彼女は何故か、俺にばかり話しかける。いつの間にか撮られていた休憩中や、倒れた俺を介抱する姿までも使われ、俺と彼女が親密になっていく姿を見せつける。  一方加藤先輩は、町の老婆に捕まり、話を聞かされる。失恋を苦に海に身を投げた女が、若い男を海に連れて行くという話。よくある怪談話だと聞き流す加藤先輩に、老婆が最後に言った言葉。 「元気だった男が、急に体調を崩し始めたら気を付けな。もうすぐ女に連れて行かれちまうよ」  加藤先輩は、貧血で倒れるようになった俺のことが気になり始める。  因みに、老婆役は原本先輩。自分でメイクして、白髪のカツラを被っての出演。原本先輩のメイク技術はすごくて、誰もこの老婆が原本先輩とは気付かないと思う。  彼女と会うのはやめろと言う加藤先輩。断固として彼女と会うのをやめない俺。 「一緒に、来てくれる?」  夕陽に照らされた彼女は、ため息が出るほどきれいで幻想的だ。 「君と一緒にいられるなら、どこにでも……」
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