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夜蝶
「……ちょっとごめんね?」
入り口を塞ぐ私の肩にポンと手を置いて出てったそのイケメンは、いま目の前で親友の風香に熱い抱擁とキスをしていた。
友達のラブシーンを間近で見る事程、照れる事ってない。
肩までのストレートの黒髪は艶々で、瞳はブルーだった。一つ多いんじゃない?ってほど開けた黒のシャツから見える肌にはシルバーネックレス。通り過ぎざま甘い香水の匂いが花粉のように舞う。
(あれは……まさしく、夜の蝶……!!!)
「そんなとこ突っ立ってたら邪魔だから早く入って」
風香がめんどくさそうに手招きする。
「風香ちょっとこんなとこで彼氏とイチャイチャ……」
「はぁ!?アイツは彼氏でもないし、イチャイチャもしてない」
「え、だって今キスしてたじゃん!」
「ちゃんと目ぇ付いてる??キスじゃなくって頬っぺた!」
「……え、そうなの?」
風香がわざとらしく大きなため息をついた。
「アンタそんなんで大丈夫?免疫の付いてない女が夜の男に惚れるって……」
今は時刻22時近い。一息ついたらしく、店内には私達だけだ。風香がソファーに体を沈めた。「お疲れちゃん!」と私が差し入れに持って来たホイップとキャラメルソース増量のキャラメルマキアートを受け取ると、『生き返るぅ』と簡単に復活をした。
風香の仕事は、いつもは15時頃から始まる。今日は雑誌撮影の為の仕事が入っていたから、午前中から出ていたらしい。この自分のお店を始めて2年目。彼女はいつも忙しい。
「人増やさないの?」
「うーん……そろそろかなぁ、とは思うんだけどね。そうなると人件費にかなり取られちゃうでしょ?そのさじ加減がさ……難しいんだよねぇ」
自分の店を持つのが夢だと言う人はいっぱいいる。でも、経営って簡単じゃないんだなと風香見てて思う。自分の好きな事を仕事にできて、稼げて、しかも自分で起業できる人って世の中にどれくらい居るんだろう。
ほんと、風香のこと尊敬する。
「あ、見つけたよ!それ言いたくて呼んだ」
彼女はそう言うと煌びやかな雑誌を私に渡したんだ。
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