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岐路
怒涛のランチタイムを切り抜け、お店はやっとまったりムードのカフェタイムに突入した。
休憩だ。目の前には、山盛りのサラダとアイスティー。
「そんなんで足りねぇだろ」
私より15分遅れで休憩に入ったサトハルが目の前の椅子に座る。
「うっさいなぁ……」
蓮という新たな王子を見つけた私には、サトハルは口うるさい父親でしかなかった。
「てめっ、反抗期か」
あまり絡まなくなった私にサトハルも素っ気ない。すぐに目線をスマホに落とした。ピコピコピコピコ……そのLINEの相手は妻か、それとも女か。それすらも気にならない。
「……静かだな」
黙々とサラダを口に運ぶ私に向かってそう言った。手元はスマホを操作したまま。
「……」
返事するのも面倒だった。黙ってサラダを食べ続けた。
サトハルもそれ以上は話しかけてこなかった。アイスコーヒーの入ったグラス。氷が溶けてカタチを変えたせいで、カランと音を立てる。水滴で濡れたグラスは泣いてるみたいに見えた。
自分でもわかってる。
不毛な恋ばかりしてきた、情けない自分。
……だけど、しょうがないじゃない。本気で好きになった初めての男性。忘れるには、新しい恋をするしかない。無理矢理にでも、誰かを好きになってなきゃ私は前に進めない。
私には、何にもないんだもん。
特技も、趣味も、生きてく目標も。
梶くんや風香みたいに生きられたらよかった。
サトハルを振り向かせられる程の魅力があったらよかった。
『夢』と呼べるものがあったらよかった。
……でも、私にはそのどれも無かった。
「優月、新店行く話……決めた?」
あぁ、それ。それすらも決められてなかった。
『まだ』と言う私に、『出来ればあと1週間位で決めて』と言うと、煙草を吸いに出て行った。
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