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最後に、『自分がマネージャーだと言うことは内緒だよ』と釘を刺した。
(なんだ、サトハルの暴走じゃん)
そう思いながら、それでも、嬉しかった。自分が会社でどういう風に見てもらえてるのかとか、サトハルが一緒に働きたいと思ってくれた事とか。
*
「梶くん、おかわり」
グラスを突き出す。
「スッキリした顔しちゃって」
グラスを受け取りながら、梶くんが笑う。
「アンタは、太陽の子よ。夜に染まっちゃダメ!たまにこーやって飲みに来る位にしときなさいね」
マネージャーにされた話を梶くんにした後だった。
その笑顔がいつもより優しい感じがして、調子が狂う。
目の前に、ほんのり琥珀色の液体がなみなみと注がれたグラス。氷の隙間からシュワシュワと細かな泡が綺麗で見つめていた。
「梶くんはさ、いつからこの仕事してるの?」
珍しく他のお客さんがいなくて、梶くんと突っ込んだ話がしたくなった。これまでずっと、はぐらかされて来てたから。
「そーねぇー……昔のこと過ぎて忘れちゃった」
やっぱり梶くんは、話してくれない。
「あ、美味しいレーズンあるのよ!サービスしちゃう」
そう言うと、バックヤードのキッチンへ。
(何この距離感……)
おかしい。絶対おかしい。こないだから感じる梶くんとの壁。段々とイライラし始めて、一気に飲み干すと空になったグラスをドン!とテーブルへ。
「あら、おかわり?」
涼しい顔してそう尋ねる梶くんに『帰る!』とお金をテーブルに置いた。
スツールから立ち上がると、久しぶりに履いたパンプスの足元がふらついた。
「……危なっ!」
バランスを崩した私を咄嗟に支えた梶くんの腕の中にスッポリと包まれる。
「あ、ごめん……」
危険を知らせる梶くんの声はいつもと違って低くて、腕も男らしくて、思わずドキドキして声がうわずった。
「……優月…アイツはやめとけ……」
耳元でそう呟いた梶くんの腕に一瞬、腕に力が込められた気がした。
ドアの外がガヤガヤして、お客さんが数人入って来た時にはもういつもの梶くんで、『あら、いらっしゃーい』とニコニコ出迎えている。
「アンタも気をつけて帰るのよ、おやすみぃ」
いつものようにオネエ言葉で肩を押した。
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