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変身
「最近、よく来るね」
21時半を少し回った頃、私は風香の店のソファーに沈んでいる。
「……飲みたいかと思って」
キャラメルマキアートを頭の上まで掲げる。献上品。
「魂胆は分かってるけどね……」
片付けをしながら、声だけが飛んで来る。
そういう私も、体は店の外に向いている。時折目の前を通過する煌びやかな男達の姿を追って。
だけど、路地裏にあるせいか人気はまばら。
「最近さー、梶ぃの店行った?」
離れたとこから聴こえる声。曖昧な返事をした。
「……ったくさー、優月こっち来な!」
嫌々ながら、カップを持って移動。
「はい、座って」
椅子をくるり、と私の方に向ける。
「え!やってくれんの?」
「……現金なやつ」
そう言って笑うと、風香はただ束ねただけの黒ゴムを外した。
「希望は?」
鏡越しに目を合わせる。
「プロにお任せ!」
風香にやってもらうのは、実はこれが初だ。だからちょっと照れた。
「……オッケ」
口を尖らせて『ん〜』と考えたのは多分、5秒位。
「んじゃ私、目瞑っとく」
そう言った私に『何でよ』と笑う。
照れるのと、ドキドキしたかったから。
『鏡よ、鏡よ、鏡さん』ってやつを体感したかった。
「梶ぃさ……最近、元気ないね」
私の頭をいじりながら、風香が尋ねる。
「……そう?梶くん、私と二人だと話してくんなくなった」
「やっぱりか……あの雑誌見てからだよね」
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