魔法

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 店長に全部食べられないうちにと、慌てて口に運んだ。  「……ほんとだ、美味しい」  素直に口にして、『どういうつもり』とサトハルを睨む。  「そういうつもり」  と、意味の解らない言葉で私の頭をポンポンと撫でた。  踏ん切りついたはずの気持ちが、たったそれだけでグラグラと揺らぐ。  悪い男と悪い女が仕切るこの店、前途多難……。  「バーカ!」   サトハルのお腹めがけてグーパンチ。  「仕事終わり、たまにはこっちにも顔出せよな」  ……人の気も知らないで。  でも、素敵な店だと素直に思う。  談笑してると、マネージャーを見つけた。  マネージャーも私を見つけて、いつものウィンクをひとつ。  彼が魔法使いのように思えて、微笑み返した。『頑張ります!』と、小さなガッツポーズ付きで。        *  セレモニーは滞りなく終了し、店長はマネージャーと一緒に、更に深い夜の街へ。  (今夜は……帰ろっと)  珍しく、早い帰宅。  あんな素敵なの見せられちゃうと、頭の中はお仕事モード。  考え事しながら歩いてたから、名前を呼ばれてるのなんて気付かなかった。  後ろから急に肩を掴まれて、ハッとなる。  振り向くと、そこにはまさかの……蓮がいた。  「全然、気づいてくんないんだもんなー。追っかけちゃったよ」  え……嘘……。  スーツでキメた、蓮の姿がそこに。  
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