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ロッカー室で着替えを済ませた私は、鏡を見ながら落胆していた。
(もっとイイ格好しとくんだった……)
白いロゴTにダメージジーンズ、黒のロングカーデを合わせて、足元は黒のペタンコシューズ。そしてどっかのショップで貰ったアイボリーのトートバッグ。
休憩室に入って、テーブルに突っ伏した。
(もう……やる気でねぇ)
何のやる気だ、と自分にツッコミを入れる。
(……そうだよ!)
あの美少年にだって、いつまたどこで会うか分かんない。こんなんでどーする!……よかったよ、会わなくて。
(間に合った〜)
って、だから何が。
そんな私の独り相撲をサトハルが見ているのさえ知らず、『やればできる』とガッツポーズをしたところで
「だから、顔!」
と、思いっきり呆れられてしまった。
「はい、カンパーイ!」
無理矢理、グラスを合わせる。サトハルの乾杯の声は無い。
「サトハル、結婚してからノリ悪くなったね」
嫌味で言ったつもり。
「そりゃそーだろ、これでも父親だぞ。」
それにも気付かず、心臓を撃ち抜いてくるサトハル。
「……優月も29だろ、早く落ち着けよ」
いっちばん聞きたくない台詞だ。
「サトハル、デリカシーないね」
おかげでビールが進むわ。『お代わり!』と注文する。
「お前!今日は大事な話あって呼んだんだから程々にしとけよ」
……え。口に運んだジョッキ越しに、サトハルを見つめる。
(……ダイジナハナシ……)
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