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その夜は、サトハルが言いたい事だけ言ってすぐお開きとなった。
……つまんない。ヒジョーに、
「つまんない!!!」
サトハルのちょっと高い頭上に向かって叫ぶ。それは見えない空砲となって届いたらしく、首をすくめた。
「……ぁんだよ」
面倒臭いとでも言いたげな顔で振り返る。
「何度も言わせんな、俺はもう父親だっ!」
何度も言うな、そんなこと。
「赤ん坊の風呂入れんのは俺の役目なんだよ!」
じゃあな、と手を振ってサトハルは地下鉄すすきの駅の階段を降りて行った。
結婚する前は、一緒に朝まで飲んだ。私が帰ろうとするのを逆に引き止めてた位だ。そりゃ、結婚しちゃったんだから仕方ない事くらい私だって分かる。でも、今日みたいに一緒に出たのは久しぶり。ほんと、半年振り位。しかもさ、サトハルから誘ったくせに。
(もうちょっと付き合ってくれたっていいじゃん……)
サトハルの中に、私は存在価値ないんだろうかと寂しくなった。
……さっき言ってくれた言葉も忘れそうだ。
*
(……どーしよっかなぁー)
「やめときなさい、アンタ」
馴染みのバーのマスターである梶くんが、おかわりしようとした私を制する。
「やめときなさい、それ以上飲むのもその話に乗るのも」
そっかくのイケメンも、オネエ言葉じゃ台無しだ。
「何でぇ!?やだ飲ましてよ」
それでもグラスを突き出す。
「……ったく、しょうがないわね!最後よっ」
そう言うと、ちゃんとグラスを受け取ってくれた。
梶くんに一度、訊いた事がある。『どっち側?』って。男の子と女の子どっちが好きなの?って意味で。そしたら『やだー、こっち側に決まってるじゃない』とオバちゃんがよくやるみたいに、手をヒラヒラさせて笑った。『いや、だからどっち側!』って突っ込んだけど、女の子が好きらしい。
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