転機

4/5
前へ
/34ページ
次へ
 その夜は、サトハルが言いたい事だけ言ってすぐお開きとなった。  ……つまんない。ヒジョーに、  「つまんない!!!」  サトハルのちょっと高い頭上に向かって叫ぶ。それは見えない空砲となって届いたらしく、首をすくめた。  「……ぁんだよ」  面倒臭いとでも言いたげな顔で振り返る。  「何度も言わせんな、俺はもう父親だっ!」  何度も言うな、そんなこと。  「赤ん坊の風呂入れんのは俺の役目なんだよ!」  じゃあな、と手を振ってサトハルは地下鉄すすきの駅の階段を降りて行った。    結婚する前は、一緒に朝まで飲んだ。私が帰ろうとするのを逆に引き止めてた位だ。そりゃ、結婚しちゃったんだから仕方ない事くらい私だって分かる。でも、今日みたいに一緒に出たのは久しぶり。ほんと、半年振り位。しかもさ、サトハルから誘ったくせに。  (もうちょっと付き合ってくれたっていいじゃん……)  サトハルの中に、私は存在価値ないんだろうかと寂しくなった。  ……さっき言ってくれた言葉も忘れそうだ。        *  (……どーしよっかなぁー)  「やめときなさい、アンタ」  馴染みのバーのマスターである梶くんが、おかわりしようとした私を制する。  「やめときなさい、それ以上飲むのもその話に乗るのも」  そっかくのイケメンも、オネエ言葉じゃ台無しだ。  「何でぇ!?やだ飲ましてよ」  それでもグラスを突き出す。  「……ったく、しょうがないわね!最後よっ」  そう言うと、ちゃんとグラスを受け取ってくれた。  梶くんに一度、訊いた事がある。『どっち側?』って。男の子と女の子どっちが好きなの?って意味で。そしたら『やだー、こっち側に決まってるじゃない』とオバちゃんがよくやるみたいに、手をヒラヒラさせて笑った。『いや、だからどっち側!』って突っ込んだけど、女の子が好きらしい。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加