転機

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 「ほら、ホントにだからね」  梶くんはそう言って目の前にレッドブルウォッカを差し出した。  私がこれさえ飲んどけばと思ってるお酒。ま、確証は無いんだけど。調だ。  「で、話に乗るなってのは?」  うっかり流すとこだった。  「いい加減、から出てらっしゃいよ」  またそれだ……。やれやれ、と黙って飲む。  「そんな言われていい気になって、ホイホイ付いてって、また延々と不毛な恋をし続けるつもりなの!?」  「だから、もう好きじゃないってば」  「好きじゃなかったら彼の言葉でそんな一喜一憂しないわよ」  反論しないせいで、図星だと思われたのか……  「性懲りも無く、の期待なんかしちゃってさ!」  畳み掛けるように攻撃される私。  「ほんっと、アンタには1ミリも可能性なんか無いんだからね!いい加減、あの男から離れて目ぇ覚ましなさい!!」  ……論破された。  梶くんはいつも正しい。私の事をまぁ、よく分かってる。だけど私は、彼のアドバイスを幾度となく裏切り続け、ばかり選び続けた。そしてその結果、数多の修羅場や不毛な恋を繰り返す羽目となった。それで梶くんは私の事を『樹海』と命名。スマホに入った私の登録名は『樹海ちゃん』だといつだか教えてくれた。  「……でもね、お仕事だけ考えてみてもこれはチャンスじゃないかと」  ジロリ、と睨みつける。  「何のチャンスよ」  梶くん声が怖いよ……。  「いや、新店のオープニングスタッフなんてなかなかやれないんだしさ。そこでフロアリーダーとかなってってさ!ゆくゆくは店長!!とか……」  振り上げた拳を、梶くんの睨みでスゴスゴと下ろす。  「フロアリーダーなんか、今の店でもやれるでしょ。オープニングったって、同じ会社内なんだからそんな変わりなし。それにアンタ……店長やりたいなんていっちども言った事ないわよ!そんな出世欲ないでしょ?」  (もう……何も言えない)  実は梶くんは、中学の同級生だ。たまたまこの店に客として来て、再会したのが6年前。だから余計、彼には頭が上がらない。
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