トマト保険

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うだるような暑さの中、人っ子一人いない田舎町を私は歩いていた。蝉の声がうるさいほど響く。 どうして私がこんなところに。何度も繰り返した問いを反芻する。理由は分かり切るほどに分かっていた。 表向きの理由は営業成績の伸び悩み。 真相は上司との不倫がばれそうになったから。 別に本気で好きだったわけではない。しかしそれは相手も同様だったようだ。奥さんにバレそうになった途端、私は切り捨てられ、こんな地方に飛ばされた。 都内で保険の営業をしていた私、桃山理子。他人に保険を勧めながら、自分にはなんの保険もかけていなかったことに今更ながら気が付いた。 田舎の一本道に休めるような木影はなく、灼熱の暑さがジリジリと私を焼く。汗で服が肌に張り付く。すべてが苛立たしく、うっとおしい。この暑さも、うまくいかない自分も、何もかも。汗が目に染みた。 必ず、成績を上げて本社に返り咲いてやる。そう意気込んだのも束の間、それが到底不可能であることはすぐに分かった。こんな田舎町で一体どうやって契約数を稼ぐというのか。怒りという感情でごまかしてはいるけれど、自分に嘘はつけない。私は途方に暮れていた。
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