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その日の夜、僕は中学のグラウンドに立っていた。
照明の光が僕の影を長く伸ばす。僕だけではなく月斗の影も。
僕は月斗の練習相手をしていた。
「やっぱサッカーはパスする相手がいないとな」
そう言いながら月斗が僕にパスを蹴り出す。
一筋の白い道でもあるようにキレイなパスが僕の足元に収まる。僕はそのパスを返す。
体育でサッカーをすることはあるが、少なくとも夏休みの間はボールに触ることもなかった。
「なんか小学生ん時以来だね、二人がボールを蹴ってる姿って」
そばで見ている理帆が言った。
確かに小学生の時、月斗と僕はよくパス練習で二人をしていた。月斗についていけたのは、いつまでだっただろう。
僕だってチームのレギュラーにはなったし、今でも体育レベルでなら活躍できる。でも月斗は、次元が違う。
*
「じゃ、理帆、パス出して」
理帆がパスを出す。少し逸れたそのパスを月斗が受け取る。1 on 1が始まる。
月斗は、ゴールを背にした僕に突っ込んできた。
速い。
いや、スピードに惑わされちゃダメだ。月斗の軸足はどっちだ。
月斗がボールを跨ぐ。焦るな、これはフェイントだ。これぐらいなら対処できる。
ここは釣られてみよう。逆に切り返すんだろう?
僕の身体が流れたと判断した月斗が、逆の足でボールを蹴り出す。思ったとおりだ。
僕は流れたフリだった身体をすぐに戻し、逆サイドを抜けていこうとする月斗に足を伸ばす。
「甘いっ!」
そう叫ぶと同時に月斗はツマ先でボールを浮かせた。ボールは僕の差し出した足の上を越えていき、月斗もまた鮮やかにジャンプして僕の足を越えていった。
そして、誰もいないゴールに簡単にゴールを決めた。
「すごーい!」
理帆の歓喜の声が聞こえる。
その声はもちろん僕に向けられたものではない。息切れしたまま僕は、月斗を指差す。
「もう一回」
「いいよ?」
不敵に笑う月斗、その笑顔を消してやりたい。
そう思って僕は1 on 1を何度も挑んだ。
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