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汗まみれになった僕はグラウンド脇のコンクリートの上に寝転んだ。日中なら鉄板のような熱さのコンクリートも夜は冷たく気持ちいい。
「お疲れー」
理帆が差し出してくれたペットボトルを僕は受け取る。
結局ーー、月斗からまともにボールを奪うことは出来なかった。
「やっぱ……月斗ってすごい……。ユース退団してたって……勝てない」
やっと息が落ち着いてきた僕が言うと、涼しい顔をした月斗は、
「当たり前だろ?」
と言った。
名門ユースに入ってたやつとは違うよなと思いながら僕は身体を起こした。寝転んでいたコンクリートに僕の汗の跡が残っていた。
「何もオレは才能だけでサッカーやってたんじゃないんだぜ? 本当に死ぬ気でやってきたんだよ。サッカーが大好きで、サッカーに人生賭けてきたから」
月明かりに照らされた月斗が言った。どこか妖艶にも見えた。
「じゃあ、なんで辞めたりしたの? 好きで進んだ道だったんでしょ?」
「理帆は厳しいなー」
月斗は苦笑する。
「好きで進んだ道だったよ。一生懸命練習したよ。でもチームには『方針』とか『ゲームプラン』っていう崩せないものがあってさ、オレの居場所はなくなっちゃったんだ。『そのままのスタイルならオマエの出番はない』って断言されちゃった」
「スタイルを変えるとか考えなかったわけ?」
僕が質問すると、月斗は頭を掻く。
「考えたよ。そうすればたぶん生き残ることはできたんだと思うよ。でも、『そんなことしたらオレがオレじゃなくなる!』って思ったんだ。パスサッカーに合わせて、一秒以上ドリブルしちゃダメとか、そんなんオレじゃないだろって。高い金を親に出してもらって控えで終わるぐらいなら辞めようって……まぁ、後先考えての行動では……ないけどな」
月斗らしいなと思う反面、なんだか哀れにも思えた。
自分のスタイルを変えられず、ユースを辞め、高校も辞めることになった。もし変えていればレギュラーになれたかもしれないのに。
いまは行き先を失って卒業したグラウンドで僕なんかとボールを蹴っている。
それが、かつて誰よりも輝いていた飯塚月斗の末路なのか――。
僕は、少し引いた目で月斗を見ていた。
そんなことを思っている自分も「嫌な奴」だとは知りながら。
「月斗もたまには休んだっていいんだよ。ずっと頑張ってきたんだし」
理帆が月斗を励ました。
その姿を見たくなくて僕はまたコンクリートに寝転んだ。コンクリートは冷たく、固かった。
「こうやって郁也や理帆と話せただけでも、いい夏休みだけどな」
頭の向こうで月斗の声が聞こえた。夏休みの終わらない月斗は、これからどうやって生きていくんだろう。
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