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その日の塾の帰り道、僕はまた中学のグラウンド脇を自転車で通りかかった。
グラウンドは暗く、照明は消えていた。
今日は月斗もいないのかな? と思っているとフェンス沿いに歩いている女性の後ろ姿が見えた。
「理帆」
僕が声をかけると理帆が振り向いた。「郁也」と僕の名前を呼び、理帆が微笑む。
「塾の帰り?」
「うん」
僕は理帆の隣で自転車を降りた。そして、理帆の隣で自転車を押しながら歩いた。
「今日は、月斗いないんだな」
僕が言うと、「あ、言い忘れてた!」と理帆は言った。
「月斗、いま青森なんだよ」
「青森ぃ?」
それは僕の予想にはない場所だった。
「なんかね、サッカー強豪校に編入するんだって。先週、日帰りでセレクション受けてきたみたい」
「そんなのできるの?」
「みたいよ。転校後、半年は公式戦出れないから、来年春からの大会しか出れないみたいだけど。サッカー続けられるならそれでいいんだって」
「ポジティブすぎだろ……」
「バイトも昨日で辞めちゃった。あ、伝言頼まれてたんだ。あいつ携帯持ってないからさ」
「伝言?」
「『一足先に夏休み終わる。練習つきあってくれてありがとな』だって」
僕は開いた口が塞がらなかった。
月斗はユースを辞めてからも次の道をちゃんと探していたのだ。好きなことを、好きなサッカーを続けるためにどうしたらできるか、自分で見つけ出したのだ。
僕は、ついさっき「月斗もオレも同じ」なんて思ったことを思い出し、自分が本当に情けない奴に思えて、首をブンブンと横に振った。
「月斗は月斗、郁也は郁也だよ」
隣で理帆が言った。
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