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自転車で十分ほど離れた場所に「Amy's」というレストランがある。
僕はこのレストランにしょっちゅう通っている。家から一番近いということもあるが、知っている子が働いているからでもある。
「あれ? 郁也、また来てたの?」
僕の席にアイスカフェラテを運んでくれたのは、前田理帆だった。
小学校からの同級生で、高校生になってからはここでホールのバイトをしている。
「また、母さんに外に行けって言われたからだよ」
「ああ、郁也ん家はそう言うよね。でも、ここに来て涼んでるんじゃ外出の意味あんまりないよね」
「ここに来るまで自転車は漕いできたよ?」
「小説家だって体力いるんでしょ? たまにはカラダ動かさないと錆びつくよ?」
理帆は笑った。
理帆は僕の将来の夢を知っている。僕が生まれて初めて書いた短編小説を読んでくれたのも理帆だ。
いまは違う高校になってしまったけれど、ここに来ればこうやって話すことができる。このレストランは居心地がいい。
「あ、そういえばね。先週からこの店に意外な奴がバイトで入ってきたの」
小声で理帆が言った。
「オレが知っている奴ってこと?」
「そう」
「誰?」
「飯塚月斗」
「え?」
僕は思わず名前を聞き返した。
「ほら、ちょうどあそこで料理運んでる」
理帆が指差す方向で料理を運ぶホールの男性が見えた。よく日焼けした見覚えのある横顔がそこにはいた。
飯塚月斗。
それは、僕と理帆の小学校時代の同級生であり、僕がサッカーを諦めるほどの『天才』と呼ばれた男だった。
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