月斗がいる夏<8000 words>

2/13

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 自転車で十分ほど離れた場所に「Amy's」というレストランがある。  僕はこのレストランにしょっちゅう通っている。家から一番近いということもあるが、知っている子が働いているからでもある。 「あれ? 郁也、また来てたの?」  僕の席にアイスカフェラテを運んでくれたのは、前田理帆(まえだりほ)だった。  小学校からの同級生で、高校生になってからはここでホールのバイトをしている。 「また、母さんに外に行けって言われたからだよ」 「ああ、郁也ん家はそう言うよね。でも、ここに来て涼んでるんじゃ外出の意味あんまりないよね」 「ここに来るまで自転車は漕いできたよ?」 「小説家だって体力いるんでしょ? たまにはカラダ動かさないと錆びつくよ?」  理帆は笑った。  理帆は僕の将来の夢を知っている。僕が生まれて初めて書いた短編小説を読んでくれたのも理帆だ。  いまは違う高校になってしまったけれど、ここに来ればこうやって話すことができる。このレストランは居心地がいい。 「あ、そういえばね。先週からこの店に意外な奴がバイトで入ってきたの」  小声で理帆が言った。 「オレが知っている奴ってこと?」 「そう」 「誰?」 「飯塚月斗(いいづかつきと)」 「え?」  僕は思わず名前を聞き返した。 「ほら、ちょうどあそこで料理運んでる」  理帆が指差す方向で料理を運ぶホールの男性が見えた。よく日焼けした見覚えのある横顔がそこにはいた。  飯塚月斗。  それは、僕と理帆の小学校時代の同級生であり、僕がサッカーを諦めるほどの『天才』と呼ばれた男だった。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加