月斗がいる夏<8000 words>

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 いまはどこの学校だって夏休みの時期だ。バイトをするのも自由だ。  だが、なぜ月斗がレストランでバイトなんかしているんだろう? あいつだけは違うだろう? 「なんかさ、いろいろあったみたい」 「いろいろ?」 「横浜の学校を辞めて、こっちに戻ってきたんだって」 「え……」 「ユースでうまくいかなかったみたい」  ちょっとした衝撃だった。涼しいレストランの中で熱中症にでもなったかのように。  僕は小学生時代、サッカーのクラブチームに入っていた。  そこに月斗もいた。  あいつがボールを持てば、すべての空気が一変する。  羽根の生えたような軽やかなドリブル、打てばゴールに吸い込まれるようなシュート。月斗がいれば勝てる、誰もが思っていた。  あの空気を変えてしまう存在感に僕は圧倒された。  ああ、こんな奴が「天才」なんだ、そう思い知らされた僕はサッカーを辞めた。  「天才」の名を欲しいままに活躍した月斗は、県選抜、北信越選抜となり、中学を卒業すると横浜のユースチームに入ることになり、この町を出て行った。  あれから一年半。    いま、あの飯塚月斗は、サッカーをしていなかった。この夏、一番の衝撃だった。
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