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それからも暑い日々は続いた。
塾の夏期講習に週に三回通っているが、それ以外は特に予定もない。
この夏の楽しみと言えば、五月に応募した賞の二次選考結果ぐらいだった。あと二週間で発表される。
この日も僕は塾の夏期講習を終えて、夜の道を自転車で走っていた。
かつて通っていた中学校の脇を通りぬけようとしたとき、グラウンドに照明が点いていることに気が付いた。
最近も夜までやる部活があるのだろうか。
僕は何となく、自転車を止めた。
照明が照らすグラウンドには三角コーンが何本か並んでいた。そして、誰かが立っていた。いや、誰かとか曖昧なものではない。
あれは、飯塚月斗だ。
たった一人でボールを蹴るあいつの姿を僕はフェンス越しに見ていた。
すると、月斗が僕の姿に気づいた。
軽く手を振りながら、彼がこちらへやってきた。その場を離れたい衝動に駆られたが、それは気まずいのでやめておいた。
「よっ。何やってんの?」
月斗が僕に話しかけた。
「塾の帰り」
「塾? そっかぁ。郁也、頭が良かったもんなぁ」
「月斗はなんで……こんなとこでサッカーしてるの?」
「オレ? ここのサッカー部顧問だった川上センセーに頼んでグラウンド借りてるんだ。夜だけ」
「一人で?」
「そう。いいだろ? グラウンドを独り占めー」
月斗は両手を大きく広げて、笑顔を浮かべた。
たぶん、この笑顔に偽りはなくて、本当にグラウンドを独り占めできていることを喜んでいるんだろう。月斗はそんな奴だ。
「郁也、時間ある?」
「え?」
「久しぶりだし、ちょっと話そうぜ? こっちに来いよ」
手招きする月斗に、僕は少し間を空けてから頷いた。
夜だと言うのに蝉の声がうるさく、風も吹いていなくて蒸し暑い中、僕は額に汗を感じながら自転車を押した。
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