22人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
*
卒業してから一度も踏み入れいない中学のグラウンド、その端にあるベンチに月斗は座っていた。僕もなんとなく隣に座った。
「郁也さー、たまに『Amy's』来てるだろ?」
「うん」
「見かけるんだけどさー、オレもバイト中だし、あんまりサボるわけにもいかないしさ」
理帆はよく話しかけてくるが、あれはサボりではないんだろうか。
「なんでバイト……してるの?」
と聞くと、月斗は汗で額に張り付いた前髪をかき上げた。
「ユースでうまくいかなくなっちゃってさ辞めることになったんだよ。それで学校も辞めることになった」
ユースに在籍しているとチームから補助をいろいろ受けられると聞いたことがある。ユースを辞めたなら学校に通い続けることはできないのだろう。
「で、地元に帰ってきたはいいけど、学校も行かず実家でゴロゴロしてたら、母さんに『メシ代ぐらい稼いできなさい!』ってことでバイトしてる」
「ああ、月斗のお母さんなら言いそう」
と言うと「だろ?」と月斗が笑った。小学生時代、月斗の家に行ったことを思い出した。
「で、いまは昼間はバイトして、夜はこうやってグラウンド借りてる。片付けやグラウンドならして帰らなきゃだけどさ。ま、ほかにすることがあるわけでもないしな」
そう言いながらも月斗は笑顔を浮かべていた。この状況が最悪だとは思っていないようだ。むしろ楽しんでいるのかもしれない。
しかし、どこか月斗に失望している僕が胸の中にいた。
最初のコメントを投稿しよう!