月斗がいる夏<8000 words>

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*  卒業してから一度も踏み入れいない中学のグラウンド、その端にあるベンチに月斗は座っていた。僕もなんとなく隣に座った。 「郁也さー、たまに『Amy's』来てるだろ?」 「うん」 「見かけるんだけどさー、オレもバイト中だし、あんまりサボるわけにもいかないしさ」  理帆はよく話しかけてくるが、あれはサボりではないんだろうか。 「なんでバイト……してるの?」  と聞くと、月斗は汗で額に張り付いた前髪をかき上げた。 「ユースでうまくいかなくなっちゃってさ辞めることになったんだよ。それで学校も辞めることになった」  ユースに在籍しているとチームから補助をいろいろ受けられると聞いたことがある。ユースを辞めたなら学校に通い続けることはできないのだろう。 「で、地元に帰ってきたはいいけど、学校も行かず実家でゴロゴロしてたら、母さんに『メシ代ぐらい稼いできなさい!』ってことでバイトしてる」 「ああ、月斗のお母さんなら言いそう」  と言うと「だろ?」と月斗が笑った。小学生時代、月斗の家に行ったことを思い出した。 「で、いまは昼間はバイトして、夜はこうやってグラウンド借りてる。片付けやグラウンドならして帰らなきゃだけどさ。ま、ほかにすることがあるわけでもないしな」  そう言いながらも月斗は笑顔を浮かべていた。この状況が最悪だとは思っていないようだ。むしろ楽しんでいるのかもしれない。  しかし、どこか月斗に失望している僕が胸の中にいた。
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