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「あたし、帰るから」
顔を上げたまおちゃんが、不機嫌そうにちらっと俺を見た。
「うん」
ざわつく気持ちを誤魔化すようにへらりと笑うと、まおちゃんが呆れ顔で俺を見つめてくる。
そんなまおちゃんに首を傾けてにこりと笑ってみせると、不意に優しい目をした彼女がほんの少しだけ口元を緩めた。
二人で並んで一緒に土手を上りきると、彼女が何も言わずに俺に背を向ける。
ほんとに行っちゃうんだ。
俺のこと、好きだって言ったくせに。
「まおちゃん!」
黙って家の方向に歩き出したまおちゃんの態度はあまりに素っ気なくて。淋しくなって声をかけると、立ち止まった彼女が俺を振り返った。
不思議そうに首を傾げるまおちゃんをじっと見つめ返したあと、少し迷ってから腕を上げて大きく手を振る。
「バイバイ、まおちゃん」
そこら中に響き渡るくらい大きな声でそう言うと、まおちゃんが綺麗に笑って、俺に軽く手を振り返してくれた。
滅多に見られないまおちゃんの笑顔に、俺の胸がやっぱりざわざわと変な音をたてる。
この変な音の正体はなんだろう。
眉を寄せながら、去って行く彼女の背中をじっと見つめる。
まおちゃんがもう一度、振り向いて笑いかけてくれたらいいのに。
少しずつ遠くなっている彼女の背中を見つめながら、俺は心の中でそんなことを強く願っていた。
《Fin》
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