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「アベル…一体、どこへ行ったんだ……」
アベルの行方はようとして知れず、一週間経ってもみつからないことに、キースは胸に大きな不安を募らせ、がっくりと肩を落とした。
「あいつは金も持ってないし、頼る友達もいないから遠くには行ってない筈だ。
だけど、これだけ探してもみつからないってことは、このあたりにはいないってことだ。
父さん…どこか思い当たる場所はないのかよ。
あいつが好きだった場所とか、なにか思い出の……あ……」
「……ケイン、どうした?」
「父さん…あの人形はあのままなんだな?」
「え?あ…あぁ、あそこにはあれ以来……
で…では、まさか、アベルはあそこに…!?」
「行ってみよう!」
ケインとキースは、地下のあの小部屋に向かって駆け出した。
「アベル…いるのか?」
しかし、地下はしんと静まり、人がいる気配はまるでなかった。
そのことが、二人の不安を余計にかき立てる。
「アベル…」
小さな扉を開き、ランプの明かりで照らし出された光景に、二人は息を飲んだ。
「ア…アベル……な、なんてことだ……」
砕けたファビエンヌの残骸に守られるようにして、その中央には一体の人形が座っていた。
哀しみに満ちた瞳をした人形が…
「う……嘘だ!嘘だ!
そ、そんな…そんな馬鹿なことがあるはずないっ……!」
ケインは大きく目を見開き、震える足が小さく後ずさった。
「……ケイン…間違いない…
これはアベルだ…
信じられないことだが、これはアベルなんだ…!」
キースは人形の手を掴んでケインの方へ差し出した。
人形の薬指には見覚えのある青い石の指輪がおさまっていた。
「そ、その指輪…!
だ…だけど…だけど、それは…」
混乱するケインとは違い、キースはその人形がアベルであることを確信していた。
たとえ、その指に青い指輪がさされてなかったとしても、キースには直感的にそのことがわかっていた。
そこにいるのがただの人形ではなく、アベルだということが…
「アベル…すまなかった。
おまえがそこまで真剣にあの人形のことを愛していたなんて…
私は、ただ、おまえを救いたい一心で…
ああすることが正しいことだと…そう信じて、おまえの気持ちを考えていなかった…
すまなかった…本当にすまなかった…
許してくれ……アベル…アベルーーー!」
キースは人形を抱き締め、涙を流して絶叫した。
けれど、砕かれて、粉々になった心は…もう二度と元には戻らない…
どれほど泣いても…
どれほど悔やんでも…もう二度と……
~fin
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