ジェンマ9 初デート編・下町セントラルシティ

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ジェンマ9 初デート編・下町セントラルシティ

 現在、朝の3時半。クリソライトは訓練服に着替え、訓練場へと向かった。悪魔学校のある街は学校を中心に中型の街になっている。通称、学園の街スコレ・ディアボリ町。学校の寮ではなく、街の方でプライベート部屋を持っているクリソライトは、学校の敷地外にある部屋から学内の訓練場まで普通に歩くと45分はかかる距離にある。空がまだ暗い中、クリソライトはアクセラレートを足に付与し、準備運動がてら部屋から訓練場まで走り、15分という短縮された時間で訓練場に着く。  アクセラレートとは簡単に言えば、身体能力を強化させ、身体の速度を加速させる魔法だ。クリソライトは、自分がディアンタの悪魔たちより体が小さいことを仕方ないと思っているが、自分の毎日重ねる訓練と努力にプライドをかけ、絶対負けまいと強く思っていた。努力を惜しまず、いつも涼しげな顔で習慣づけた朝練をこなしたクリソライトにとって、朝訓練は自分を貫くためのモットーのようなものだ。ディアンタであるクリソライトは魔法付与をして、軽く走るだけで45分の距離を15分位まで短縮し、訓練場に着くことができるが、本気で走れば、短縮された15分をもっと短く、7分で訓練場に着くことができる。  普通とは少し違う朝を迎えたクリソライトは、普段通りの朝訓練を終え、身体磨きと衣装選びに時間をかけて、丁寧に行っていた。メルムとパートナーになってから1ヶ月以上経つこの日にやっと初デートを迎える。いわゆる、緊張感モリモリの初デート。いつもクールにしていたクリソライトでさえ、少し緊張を覚え、楽しみという感情でいっぱいだ。 「今日は、どっちにしよっか、、」   クリソライトは自分が持つ何種類もの手袋を見て、少し悩んでから普段とは少し違う形の手袋を手に取り、スーッと両手にはめた。 「よしっ、靴は、、こっちだね。」  支度を念入りに済ませたクリソライトは、部屋を後にし、1時間早く学門へと向かっていた。  9時45分 「あっ、先輩。遅れてしまいすみません。」 「おはよーメルム。いいよ。僕、そんなに待ってないし、遅れてないよ。約束の時間は10時だからね。」  メルムは学門の前で立っているクリソライトの姿を見て、早足でクリソライトの元にゆき、挨拶をした。クリソライトはおしゃれなブラウスにジャボ、ハイウェイストのショートパンツとサスペンダーを着ていた。ジャボの真ん中には灰色混じりの黄色いブローチが綺麗にはめられてあった。左ポケットには財布が入っていて、その財布は細い鎖でショートパンツに繋がれていた。普段着ていた黒色のガクランのような上着とは違う、いつもより少し柔らかい雰囲気をしていたクリソライト。 「早いけど、行こっか?」 「はい。」  メルムは少し浮かない表情で、いつも通りのトーンで返事をした。クリソライトは少し不思議そうにメルムを見て、何も言わなかった。  二魔(ふたり)は悪魔学校が建てられてあるこの学園の町、スコレ・ディアボリ町と下町であるセントラル・シティを繋ぐレールバスに乗り、下町へと向かって行った。このレールバスは魔石で動かされており、時速380キロで線路を走っている。高速度での揺れを感じさせないように、ある魔法効果が付与された魔石が設置されている。その効果は、シンプルに言って、状態維持の魔法だ。スコレ・ディアボリ町とセントラル・シティの間には大河が流れており、大河を渡ると畑が広がり、その広い畑を超える先にあるのはセントラル・シティである。レールバスに乗って9分、バスは到着地点であるセントラル・シティの中央広場に着いた。  セントラル・シティ。中世ヨーロッパの街並みの雰囲気を持っているこの街は、様々な材料で建てられている個性的な建物にあふれている。木造や石造、ガラス製の建物やレアな素材を使った建物。細かく分類すれば、木造の木の種類に石造の石の種類、ガラスを作るための素材のこだわりに、透明なクリスタルや魔石を素材とした建物が町中で見られる。円形型都市になっているこの街には、大きく分けて6つの通りがある。グルメ・ストリート、ファッション・ストリート、芸術ストリート、文芸ストリート、魔石ストリートに宿ストリートは、円形型になっているこの街を、ケーキのように6分に分けた。6分に分けられた区域はまた細かく分類され、専門的な店が作られている。2つのストリートに挟まれた区分にはその2つのストリートに関連するものが入っていて、一般的な店から特別な店までこの街には普通に存在している。 「やっと着いたね。」 「はい。」 「んん、昼ごはんには少し早いね、、特に見たいものある?」 「え、、と、、」  浮かない顔をしたままのメルムを見て、クリソライトは少し考えてからメルムの額にデコピンをして、左手でメルムの右手を取った。 「何浮かない顔してんの?初デートなんだから、楽しもうよ、、」  クリソライトは苦笑してそう言った。 「特に見たいものがないなら、僕に付き合ってもらおっか?」  クリソライトは繋いだメルムの手を引き、ファッション・ストリートへと向かった。目当ての店はいつも贔屓にしている手袋の店だ。 「ここ、僕がいつも行ってる店だよ。質も品揃えも完璧でめっちゃ僕好みの店だよ。」  メルムは、楽しそうに手袋を見るクリソライトを少し意外な目で見ていた。 `先輩にもこういう表情できるんだ…なんか可愛い…しかも、メッチャ共感できる!` 「あの、私が見たいお店なんですが、ここの隣のコルセットの店なんです、、」 「コルセットかー 今もおしゃれなコルセットつけてるもんね。コルセット好きなの?」 「はい。大好きです!先輩は手袋が好きなんですか?」 「僕?うん。手袋好きだよ。特にこんな手首を覆わない短なタイプが、、」  メルムが言っていた共感できる部分は、自分が持つコルセットへのこだわりとクリソライトが持つ手袋へのこだわりだ。 「先輩にとても似合ってます。」 「そう?」  少し照れてる表情を見せたクリソライトを見て、メルムの表情も自然と和らいだ。 `先輩は自分を隠さない。赤が見られたから何?私だって悪魔だ。いつまでも浮かない顔をしていたら、楽しそうにしている先輩にも失礼だし。それに、普通とは違う先輩は新鮮で可愛い` 「メルム?コルセットの店に行く?」 「いいえ。先輩が見終わってから一緒に行きましょう。」 「…?じゃ、言葉に甘えちゃおっか?」  クリソライトはそう言ったメルムの表情を見て、その言葉に甘えた。 `吹っ切れた感じ?何にかはわからないけど、、` つづく、、、
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