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ジェンマ5 甘い前菜
クリソライトは、クーリングダウンすると伝えた後、訓練場に戻っていた。メルムが来ていることにびっくりはしていたが、それ以上に嬉しかった。が、困ったことがある。それは、ここが訓練場であることと、メルムの返事に詰まって困った表情だった。
`あーあー、そんな可愛い顔を見せられたら、僕が我慢できなくなっちゃうよぉ`
クリソライトは`困ったなー`と思いながら、クーリングダウンを終わらせ、制服に着替えた。
「終わったよ。食堂に行こっか」
笑顔でそう言って、クリソライトはメルムと一緒に食堂へと向かった。が…
「ペルシチ…なんで君もついて来てるんだ?」
メルムの左隣にニヤニヤしながら、付いて行くペルシチにクリソライトは呆れた声で聞いた。
「つれないなークリソライト。俺たちの仲だろうが!」
「何が俺たちの“仲”だよ!それに、後ろの悪魔ども!何コソコソ付いて来てんの?!」
クリソライトは歩みを止め、後ろを向いた。そう言われた後ろにいる数名の悪魔たちがギクリとなり、文句を言い始めた。
「いやー何、、君のパートナーくんが気になってですね、、」
「そうだよ!クリソライト!お前こそ何知らぬ間にパートナー作ってんの??つれないやつだな!」
「そうですわ。私たちだって、あなたのパートナーくんが気になるに決まっていますわ。」
「いいんじゃないのー、パートナー作る前にちょっと相談?恋バナ?あれ?まあ 知らないけど、一言入れてもさー」
黙って文句を聞いていたクリソライトの顔に青筋が出ていた。
「あああ!もう!初日ぐらい、静かにしてくれよ!はい!散れぃ!悪魔ども!」
クリソライトの左側に立っていたメルムはクリソライトを見てこう思った。
`言葉遣いが全然違うんだけど…先輩ってもしかしてあれかな?切れるときに荒くなるタイプかな?`
でも次の瞬間、思っていたことが粉々に砕かれて、散ることになった。
「そう言うなって、ちょっと食事を一緒にするだけじゃないか。な!後輩君!」
「アハハハ 君たち僕の言うこと聞けないの?もしかして、耳ん中に虫とか詰まっていて、聞けない状態なの?それはダメだねー 僕が耳を千切って、虫を取ってあげよっか?」
そう言ったペルシチにさっきとは違った意味でのキレ方をしているクリソライトに、付いて行こうとした悪魔たちの顔が青くなっていく。クリソライトは右手を咳払いするような形にして、顎に当てながら、歪んだ表情と笑みをした。そして、赤く光る瞳は`楽しいだろうね`と語っていた。
「大丈夫だよ?悪魔の治癒力はすごいんだから!特に僕たちのような身体能力の高い悪魔は、ね。あっそれともついでに、何分で千切られた耳は治るかという研究もしちゃおっか?」
笑みを大きくするクリソライトにペルシチを含む後ろで文句の数々を言った悪魔たちが凍りついて、動けなくなっていた。メルム然り、顔を青くしていた。
`ヤバイ!この悪魔、やはりヤバイやつだった!!`
顔を青くしたメルムの頭の中はレッドフラグが立ち続けていた。メルムの顔に気づいたクリソライトは、表情を緩め、クスと笑った。
「静かになったし、行こうか?」
そう言ったクリソライトは、スムーズにメルムの手を取り、昨日みたいに指と指を絡み合わせ、歩き出した。固まっていた悪魔たちは、後ろに立ったまま動けなくなっていた。繋いだ手にリードされたメルムは、まだ血の気が引いた顔をしていた。緊張のあまり、困ったことを通り越して、凍っていた顔をしたメルムを見て、クリソライトは目を細めた。
`だから、そんな顔しちゃダメだよメルム…`
そう思った次の瞬間、クリソライトは空いた自分の右手でメルムのジャボ(近世ヨーロッパのフリルのついた胸の飾り)をつかみ、自分の顔へと強引に引き寄せ、メルムの唇を奪った。不意打ちを取られ、反応できなかったメルムは、視界に広がる透明な黄玉の瞳に気づいた時には、自分の唇に柔らかい何かが押し当たる感触を感じた。それは、何かじゃなくクリソライトの唇だった。目を開けたまま、メルムの反応を見たクリソライトは、少しすると唇を離し、ジャボの握りを外した。
「そんな可愛い顔をすると、食べちゃうよ?」
可愛い口ぶりに不似合いの欲望に染まった笑み。そして、獲物を見るようなキリッとした目はメルムしか写していなかった。
「食堂に早く行こう?僕、お腹すいちゃったよ。」
ぐるりと体の向きを食堂に続く廊下へ向け、クリソライトはメルムの前を歩いた。
さっきの出来事に追いついたメルムは、ハッと唇を手で塞ぎ、クリソライトの後ろ姿を見て、自分の体内の温度がどんどん上がることを感じ、冷たかった頬に手を当てた。
`僕もまだまだだねー 我慢が足りない。初日に手出しちゃったよ…でも…`
クリソライトは静かに唇を釣り上げ、上唇をペロと舐めた。
`ゴチだね。`
上機嫌に歩くクリソライトと後ろを続くメルムは、食堂に着き、朝食をすませた。
おまけ❣️
「メルム、あのグロい食べ物って何?」
不審物を見る目で、クリソライトは気まずそうな笑みでメルムの皿に乗った怪しい「食べ物?」を指差した。
「先輩、知りませんでしたか?これは、最近「噂」になっている食堂の裏メニューです。深海魔魚の目玉カレーです。先輩も食べて見ますか?」
真面目に説明していたメルムを見たクリソライトは`…魔魚の…目玉カレー…`という何とも言えない顔になっていた。
「メルムが食べてて。僕、魚類は苦手なんだー」(嘘)
「そう…ですか?」
「うん!じゃ、いただきます。」
「はい。いただきます。」
`誰から聞いたの..その裏メニュー…はー、今日から僕、魚類避けないといけなくなるのか…`
甘い前菜からのグロい目玉カレーという危機を逃れ、心中では好きな魚料理が食べれなくなる瞬間にため息を流しながら、虚しく朝食を食べたクリソライトでした。
つづく、、、
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